かわらじ先生の国際講座~外交は柔軟思考で

前回は、同盟にあぐらをかかず、柔軟な頭で外交を見直すべしとのお話でしたが、具体例を挙げてもらえますか。

日本は中国の軍事力を最大の脅威とみなし、過去最高の防衛予算を組む一方、アメリカとの同盟に自国の安全を委ねています。この状況をみると、「生命保険に入っていれば、どんな暴飲暴食も怖くない」と豪語している人を思い浮かべます。保険の有無にかかわらず、節制して健康に気を付けた暮らしをすることが大切でしょう。そして保険の世話にならないに越したことはありません。アメリカとの緊密な関係は大切です。しかし、アメリカの庇護がなくなれば、とたんに日本は危険に晒されるというのでは困ります。かりに今、日米安保がなくなっても日本の安全はゆるがないといった安全措置を二重にも三重にも築いておくことが肝心です。そのためのアイデア(具体策)ならいくつも思いつきますが、これは皆さんへの宿題にしておきます。思い切りユニークな案を考えてみてください。

北朝鮮への政策はどうでしょう?

今月下旬に米朝首脳会談が行われる見通しですが、主要議題は核問題でしょう。他方、日本には拉致問題という独自の案件があります。これはアメリカ頼みで動く性格の問題ではありません。とはいえ、日本がいくら声高に拉致被害者を返せと叫んだところで、今のままでは先方がすんなり返すはずもありません。

ではどうすればいいのですか?

日本人が北朝鮮に入って見つけ出すのが一番です。そのためにはまず北朝鮮との国交を正常化すること。パスポートを持って自由に北朝鮮へ旅行に行けるようになれば、自ずと現地で拉致に関する情報も得られます。実は北朝鮮はすでに世界164ヵ国(世界の国の8割以上)と国交を結んでいます。日本やアメリカのように結んでいないほうが少数派なのです。EU諸国も大部分が国交を結んでおり、北朝鮮にはヨーロッパ人の観光客も多いようです。

ロシアとの北方領土問題はどうですか?

この問題で一番の犠牲者は、高齢化している元島民の方々です。彼らが故郷で暮らすなり、好きな時に墓参できるようにするなりしないといけません。しかし、それは簡単なことなのです。主権の問題にこだわらなければ、いくらでも択捉なり国後なりに暮らすことはできます。たとえば、日本国籍がなくても日本に永住している外国人はいくらもいます。我々だってアメリカ人にならなくてもニューヨークにマンションを買って永住することができるでしょう。それと同じです。元島民が北方領土に行けないのはロシアが禁じているからでなく、日本政府が足止めしているせいです。

つまり元島民がロシア政府に永住権を申請すれば、北方四島がロシアの主権であることを認めたことになるから、だめだというわけですね。観光も同様ですね。パスポートをもって北方領土に行くことは、ロシア領だと認めたことになるからダメだと、日本政府が我々に渡航を自粛させていると聞いたことがあります。

そうです。主権にこだわらなければ、行き来はすぐにも実現できます。

でも主権の問題は国家の根幹にかかわるから重大なことでしょう。

国家というものを背負えばそうなります。しかし、「地球市民」あるいは「自由人」として生きるなら、主権などどちらでもよいのです。本来、この地球はだれのものでもありません。あえていうなら、未来の生命すべてのものであって、われわれ現代人は、この地球を未来に引き渡すまでの間、壊したり汚したりしないよう、預かっているにすぎないのです。ユーラシア大陸はロシアや中国や中央アジア諸国が責任をもって管理し、われわれが暮らすこの島国は、日本が責任をもって管理する。本当はそれが主権というものです。ロシアが管理しようが、日本が管理しようが、そこが故郷だと思えば、そこに自由に暮らせばよい。下世話な話ですが、この京都の土地だって京都人のものではありません。人生という限られた時間、次代にきちんと譲り渡せるよう管理しているだけです。その土地を自分が排他的に独占している場所だという思い上がりが主権争いになっているのです。21世紀の人類は、この思いあがった主権概念から解放されなくてはならないと感じます。

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河原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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