かわらじ先生の国際講座~「帝国」雑感

先月来、歴史認識をめぐって日韓関係をこじらせる問題が続いていますね。

釜山の国際観艦式における海上自衛隊の「旭日旗」掲揚問題、徴用工損害賠償訴訟をめぐる韓国大法院(最高裁)の判決、そして韓国のアイドルグループBTS(防弾少年団)の「原爆Tシャツ」着用騒動のことですね。

これらは互いに関連があるのですか?

さあ、どうでしょう。しかし、今年は日韓共同宣言20周年という記念すべき年ですが、この一連の出来事によって台無しになりました。歴史問題は厳粛ですから、誠実な対応が不可欠です。ただし扱い方によっては国民感情の衝突になりかねません。そうなる前に政府間での決着が望まれます。政府の政策が国民感情を煽ることがあってはなりません。

近現代史の問題の難しさは、感情的対立を招きやすい点だと言えるでしょうか?

そうです。ここで少し話題を変えますが、大学の講義で、学生たちに帝国のイメージを尋ねたところ、ほとんどがマイナス(悪い)と答えました。国民世論もほぼ同様でしょう。ただ、みな頭の中ではそう考えても、感情レベルでは帝国を何か晴れがましく、誇らしいものと感じているのではないでしょうか。

なぜですか?

最近気づいたのですが、企業名に「帝国」が付いているものが案外たくさんあるのです。そこには誇らしい気持ちが込められているでしょうし、我々もその呼び名を特に悪いと感じていません。むしろ評価が高い企業ばかりです。

具体例を挙げてください。

それは是非とも皆さんへの宿題にしたいところですが、主だったものをいくつか列挙してみましょう。帝国ホテル、帝国劇場、帝国データバンク、帝国書院(歴史の教科書も出している老舗の出版社)、帝国通信工業株式会社。また、ボクシングの帝拳プロモーションは「帝国拳闘」を短くしたものですし、京都帝酸株式会社は「帝国酸素」から来ています。カタカナ名「テイセン」の正式名称は「帝国繊維株式会社」、「テイジン」は「帝国人造絹絲」に由来しています。これらはすべて大日本帝国の時代に創設された会社で、今日もそのおもかげを社名にとどめているわけです。ついでながら、薬の「正露丸」は、当初はロシアを征服する意味の「征露丸」と表記し、日露戦争に赴く兵隊に持たせたとか。さすがに外交上問題ありとして「征」の文字は改めた由です。

けっこう帝国主義時代の流れを汲む会社があるのですね。

はい。「ぎょうざの満洲」というチェーン店もあって、どきりとします。名は体を表すと言いますから、命名にはいろいろな思いがあるんでしょう。しかし、それを反動的だとか復古主義だとか糾弾する気持ちはありません。いくら帝国はダメだと言っても、国民感情はとても複雑です。

結論は?

きょうの話に結論はありません。とりとめのない話で恐縮ですが、歴史認識の問題は非常に根が深く、人々の情念がからんでいて、正義論では割り切れない性格のものだと言いたかったのです。ですから、日韓問題も、双方の国民が感情的な衝突を引き起こせば、収拾のつかない憎悪の連鎖を招きます。そうならないように両国政府の英知ある「危機管理」に委ねるほかありません。

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河原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。