かわらじ先生の国際講座~日米安保条約を考える

安倍首相が秋の臨時国会で自民党の改憲案を提出する意向を示していますが、他方、日米安全保障条約の改定などといったことは決して話題になりませんね。

はい。実際は冷戦の遺物である日米安保条約のほうが様々な問題を抱えているんです。

たとえば?

条約の第6条には、日本と極東の安全に寄与するために、米軍は日本の施設を利用できると定められています。しかし在日米軍は、その範囲を逸脱し、インド洋から中東、さらにはアフリカにまで守備範囲を広げているのです。

つまり在日米軍基地は、アメリカのグローバル戦略の拠点として利用されているのですね。

そうです。ついでながら、日本に駐留するアメリカの海兵隊が、日本語のホームページを作っています。サイトはこちら

このサイトの右の欄にある「まんが日米同盟」をお読みください。アメリカの日米同盟観がよくわかります。その第4号を見ますと、日本も米軍と協力してグローバルな活動をする方向性が示されています。日米同盟はとっくに安保条約の枠を越え、グローバルな性格に変質しています。

条約と現実が大きく乖離しているのですね。

はい。ところで日米安保条約には通称「地位協定」と呼ばれる付属の協定があります。その問題点についても2点、指摘しておきます。まずは、「思いやり予算」問題です。地位協定の第24条には、在日米軍の駐留経費はすべてアメリカ側が負担することが定められています。しかしアメリカ政府の財政的な厳しさに鑑み、1978年に日本がその一部(62億円)を肩代わりすることになりました。これは日本政府の好意によるものですから「思いやり予算」と呼ばれました。それが今では在日米軍駐留経費に関する「特別協定」として、日本が支払うことが義務化されました。毎年、2000億円近く日本が負担しています。さらに、在日米軍基地の地代等も日本政府が負担していますので、それらを合せると日本は在日米軍のために毎年6000億円~7000億年負担している計算になります。これが、米軍が日本から決して撤退しようとしない大きな理由の一つですね。

地位協定に関するもう1点の問題とは?

米兵が公務中に事件を起こしても、日本に裁判権がないことです。実際には公務外で起こした事件に対しても、日本側が法的に裁くことは困難な状態のままです。

どこか治外法権を思わせますね。

やはり在日米軍には占領軍としての性格が残っているということでしょう。沖縄の米軍基地には「キャンプ・ハンセン」や「キャンプ・シュワブ」といったカタカナの基地名がありますが、この「ハンセン」や「シュワブ」は沖縄戦で武功をあげたアメリカ軍人の名前です。本当に日本との友好を考えるなら、占領軍の兵士の名前を基地名にはしないはずです。日米安保条約には、日本の敗戦と東西冷戦という二重の刻印が押されています。
我々は冷戦後を生きているわけですから、この安保条約について見直す時期がとっくに来ています。そもそも条約の第10条には、日本の安全を確保するための国連の措置が効力を生じるまでの一時的な条約だと記されています。この条約を神格化し、永久不変のものとする考えの方が間違っているのです。沖縄の米軍基地問題も、本来は日米安保条約のあり方そのものから抜本的に問い直していく必要があります。

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河原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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