かわらじ先生の国際講座~米露首脳会談のむなしさ

今月16日、フィンランドの首都ヘルシンキで米露首脳会談が行われました。具体的な成果はあったのでしょうか?

マスコミの報道をみるかぎり、曖昧模糊としていますね。両国の関係改善、シリア和平、核軍縮での連携、イランの核開発の阻止、その他北朝鮮問題なども話し合われたようですが、何ら具体的な方策は出されていないのです。

2016年のアメリカ大統領選挙に対するロシアの介入が、きっぱり否定されましたね。

はい。プーチン大統領は初めからロシアの関与を否定していましたが、今度はトランプ大統領までがそれに同調したのです。アメリカの司法当局や情報機関は、ロシアの介入を示す証拠を握り、ロシア人容疑者さえ起訴しているにもかかわらず。つまりトランプ大統領は自分の政府機関よりも、プーチンの言い分を受け入れたわけです。

それはまたなぜですか?

トランプ大統領はアメリカファーストどころか、いまや自分ファーストに陥っています。次の大統領選挙に勝つため、なりふり構わず外交を展開しています。「貿易戦争」でEUや中国を敵に回し、日本まで敵視して貿易赤字の脱却を目指していますが、11月の大統領中間選挙までに手っ取り早く成果を出すための強引な策です。また、次も大統領選挙に勝つためには、プーチンを敵にしては不利だとの打算があるのでしょう。私にはトランプ大統領が、自国の情報機関以上にプーチン大統領を恐れているような気がしてなりません。

しかしアメリカとロシアの関係改善自体は望ましいことではありませんか?

私には両国の関係改善ではなく、トランプとプーチンの個人的ななれ合いだとしか思えません。ロシアに民主主義はなく、プーチンの独裁が深まっていることは6月5日付のこのコラムで書いたとおりです。かたやトランプも、EUやカナダ、日本など友好国を平気で糾弾し、さらには自国の政府機関さえ敵に回す始末です。傍若無人としか言いようがありません。米露の首脳を見ると、真実などどうでもいいかのようです。権力者の都合のいいように現実が書き換えられていく。その不気味さを痛感します。このへんは日本の政治についても全く同様のことが言えますが。

かなり悲観的ですね。

はい。国際関係は開かれたものでなくてはなりません。しかしロシアはクリミアを占拠し、シリアやイランをコントロールして中東を自らの勢力圏としつつあります。アメリカも自国の経済に不利とみた相手を敵視し、アメリカの市場から排除しようとしています。米露は世界を自国の都合がいいようにブロックし、囲い込み、ますます閉鎖的な息苦しいものへ変えようとしています。率直に言って今度の首脳会談は、何かむなしい茶番劇を見ている気がしました。

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河原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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