長寿化とリタイア
少し前までは「定年60歳」が一般的な慣行でしたが、長寿化にともない65歳までは定年延長を含むなんらかの形で、継続雇用が企業には義務付けられました。基礎年金の支給は原則65歳のため、定年後の無報酬となる空白を避けるためですが、昨今はその事情だけではなくなっています。高齢人口増と長寿化により年金システム自体が揺らぎ始めているためです。以前と違い、年金は物価に応じて上昇せず、人口や財源全体の状況から調整される「マクロ経済スライド」が導入され、実質今後は継続的な減額が予想されます。そのために健康な高齢者は「働き続ける」ことも視野に入れなくてはならなくなりました。実際、65歳以上でも働き続ける人の比率は高まっています。
複雑化する年金受給
審議会等の動向から「70歳定年制」も話題になっています。65歳時の平均余命は、男性が約19.5年、女性が24.5年もあります。この年数はさらに延びていく可能性もあり、昨今の労働力不足の問題だけでなく、明らかに財源が厳しいことが背景でしょう。皆年金制度が出来た1961年は、平均寿命が、男性で66歳、女性で71歳でした。年金をもらう期間は非常に少なかったのですね。年々延びる寿命に対し、年金制度の改正はたびたび行われています。65歳が規準ながら5年前倒しでもらえる制度(ただし金額は減額)、5年後ろ倒しでもらえる制度(増額)もあります。さらに70歳以降に後ろ倒しできる制度も議論されています。いつからもらうと得なのか、こればかりはいつまで生きるかということなので、非常に難しいですね。
高齢期の収支予測
これからの高齢期の設計は決して明るくありません。働けなくなると、おもに年金が収入になりますが、減額されていくことは確実。しかし、医療や介護の保険料や実際利用したときの負担は上がっていきます。これに、物価上昇が加わると本当に生活が厳しくなる人も決して少なくはないはず。社会福祉・社会保障がカットされ続けていますが、それで済む話でもないと思います。自分で老後の対策を立てていく重要性はもちろんですが、格差社会の是正も必須なのではないかと感じます。
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山中由美<エイジング・デザイン研究所>
大学卒業後、商社等を経て総合コンサルティング会社のシニアマーケティング部門において介護保険施行前から有料老人ホームのマーケティング支援業務に携わる。以来、高齢者住宅業界、金融機関の年金担当部門などを中心に活動。2016年独立。