研究が進む認知症高齢者の施設
先週、東京で新しい介護施設(有料老人ホーム)を視察してきました。その施設では英国の大学と連携し、施設内の設備にさまざまな工夫がなされていました。認知症の人の行動や思考を研究し、転倒の危険や混乱・不安をもたらす要素を軽減する室内デザインとなっています。たとえば、ピクトグラム(絵)をつかって大きな文字でシンプルに場所を示すなど。また、黄色や赤色は認知症でも記憶しやすいそうで、文字を忘れても色で判別できるケースが多いとか。トイレは黄色のドア、手すりは赤、など必要な部位を明確にしていました。
居住性が高まる介護居室
20㎡と決して広くはないものの、今まで介護居室ではあまり見られなかったミニキッチンが設備されたり、収納を随所にうまく配置したり、さらにベランダも広さを十分とってくつろげるようにしたり、と「介護をする部屋」というより「暮らす部屋」に進化していると感じました。致し方ないのですが、窓はひとりで全開できないよう(認知症の方が出て行ってしまわないように)制御されています。一方で中庭は公園なみに広々と遊歩道なども整備され、気持ちよく散歩ができるようになっています。官民共同の再開発エリアでなせる業かもしれません。
回想法
回想法(昔を思い出して脳を刺激する)は、介護保険前から認知症の人々のアクティビティとして提供されていましたが、最近また随所で見られるようになってきました。施設のデイルーム(リビング等)は、あえて昭和初期のような雰囲気を出して、黒電話の設置、柱時計、和ダンスなど、昔を思い出すしつらえをしています。居室モデルルームに、ちょっとびっくりなTVが置かれていました。これもあえて昔風に作られたものだそうです(中身は最新式)。介護のIT化が進む中ですが、あえて昔を思い出させる工夫というギャップはユニークであり、必要不可欠と感じます。
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山中由美<エイジング・デザイン研究所>
大学卒業後、商社等を経て総合コンサルティング会社のシニアマーケティング部門において介護保険施行前から有料老人ホームのマーケティング支援業務に携わる。以来、高齢者住宅業界、金融機関の年金担当部門などを中心に活動。2016年独立。