「高齢者住宅」をどう捉えるか？

約20年公私に渡り高齢者住宅研究をしてきて「高住オタク」を自称しています（笑）。昨年もたくさんの新旧有料老人ホームや高齢者住宅、介護施設を視察しました。よく「今まででどこが一番良かったですか」など聞かれますが、答えることができません。「良い」規準は人によって全く異なるからです。さらに住宅も「生き物」。随分昔に評価の高かったところでもいつの間にこんなことに…ということもあり、逆も然り。「ここはちょっとどうか」と感じるところでも、満室だったりします。本人の価値観、そして介護施設の場合、家族の事情などもあるので、高齢者住宅に善し悪しをつけるのは本当に難しい、というかできることではない、と感じています。と、言いながらも去年は非常に印象に残った「高齢者住宅」がありました。

 

平均年齢90歳で自立、みんな元気

訪れたのは、福岡市にあるサービス付き高齢者向け住宅。築30年の古い3階建てアパートを改築したものです。1階の部屋は全部ぶち抜き大きなLDKに。2階と3階で8戸という小さな集合住宅です。1戸は26㎡でキッチン・バス・トイレ付。古いアパートをバリアフリーに改装されたので相当なご苦労が垣間見えました。90代の女性のお部屋を見せて頂いたのですが、とても快適にお暮しの様子。なんと居住者平均年齢が90歳を超えています。一部の方は介護サービスを利用されていますが、「自立・自律」して生活しているので誰も要介護１より悪化しないと言われます。経営者の方にお伺いすると「秘訣は美味しい食事！」（笑）。居住者が1階の共有スペースに集まり、自主的にイベントや壁の飾りなどを施しているとか。訪問時も1階リビングのソファでぐぅぐぅ寝ている方がおられ、「我が家」感満載でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

必要なものが必要

もし自分が「高齢者住宅に住み替える」としたらどのような住宅を希望しますか？「部屋は２LDKぐらい、バリアフリーで緊急時にはすぐ職員がかけつけてくれて、介護が必要になっても十分な対応があり、医療との連携もばっちり！多くの人に囲まれて最期は看取られたい。しかも値段が安いとこ！」などが多いでしょうか。理想は理想で良いのですが、現実的にはありえません。どこまで求めるか？さまざまな報道で「老後破綻」「介護難民」を洗脳されつつある私たちですが、ホントに必要なサービスか？を一度考えてみることです。これはかなり個人差が大きい。福岡の住宅は夜間は職員がいません。警備会社への緊急連絡ボタンはありますが、基本は日中、食事担当の方がいるだけです。食事は近隣の人も一緒に食べられるので、多くの方が出入り自由。小さな住宅で毎日顔を合わせるので「孤独死」もない。日中賑やか、夜間は寝るだけ、普通の生活だと感じます。

 

万人に最適な住まいはない！

上記の住宅が「良い」「オススメ」というわけではありません。ただ、あまりにもサービス合戦化した「安心・安全」高齢者住宅ビジネスに疑問を感じるこの頃。このような自然な住まいがあってもいいのではないか、（あくまでも個人的に）美味しいご飯と安全な寝床があれば十分（笑）と思う私には「良い」と感じた次第です。まずは、自分のあるべき住まいの姿をイメージすることが大切ですね。「どのような高齢者住宅に住み替えたいのか？」

 

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山中由美＜エイジング・デザイン研究所＞
大学卒業後、商社等を経て総合コンサルティング会社のシニアマーケティング部門において介護保険施行前から有料老人ホームのマーケティング支援業務に携わる。以来、高齢者住宅業界、金融機関の年金担当部門などを中心に活動。2016年独立。