カナリアに聞く~川村輝夫さん

“伝説のディレクター”川村輝夫さん

――68年にザ・フォーク・クルセダーズの「イムジン河」が発売中止になっても、川村さんはラジオでかけ続けたそうですね?(※※)
イムジン河で分断された朝鮮半島への想いを歌った「イムジン河」のレコードは、アメリカに対する忖度、あるいはレコード会社の親会社である東芝の不買運動が韓国で起こることへの懸念、様々なことを鑑みてギリギリで発売を中止した。でも、シングル盤は発売されなかったけれど、フォークル解散の一年前に自主制作されたLPレコードがあって、一般の人が入手していない音源を僕は個人的に持っていました。だからラジオ関西が「帰って来たヨッパライ」を深夜放送でかけてヒットさせたから、うちは「イムジン河」で行こうと。あの歌は音楽的にはあまり面白くないけど、凄いものをはらんでた。もっとも彼らはそんな意図はあんまりなかった様だけど・・・。僕は忖度しなかった。そういう性格なんですよ。赤いシャツやセーターを着て総務辺りをうろついていたら、総務部長に「ちゃんとネクタイをして来い」と言われ、あくる日から用もないのにわざわざ赤いシャツを着て、総務や経理をウロウロした。局長会議もいつもジーパンにTシャツで出た。へそ曲がりなんです。

――昨今のマスコミに漂う空気や自主規制をどの様に感じていますか?
今の空気は苦々しく、恥ずかしい状態ですよ。電波も大新聞も政権寄りでお上に逆らわないでしょ。そういう意味ではマスコミの姿勢は戦時中と変わってない。大臣から電話が入ると内容を削ったり、放送を中止したり。在職中に報道も少し経験しましたが、現場に張られている規制線をマスコミが越えられるのは、国民の代表だから、国民には知る権利があるからであって、別に大手新聞社や公共放送だからではない。なのに取材する者は自分の力だと勘違いしたり、官邸から電話がかかって来ない様に忖度している。正しいかどうかの判断は国民がするもので、考える為の材料を提供し、明らかに間違っていることは正すのがマスコミの姿勢だと思うんです。レコードの発売が中止されても、中止は禁止ではないし、みんなが聞きたいと思ってリクエストが来るならかけよう、僕は僕が正しいと思うことをやり続けた。あの頃の曲に影響を受けた人が大勢いる。僕は間違ってなかったと思っています。当時のラジオ番組は担当する人の個性が強く出て、その人の責任で行い、失敗したら謝って辞める。今はそういう個性がなく、誰がやっても一緒みたいなところがあって、それが日本の教育なのかも知れないけど、選挙もどこに投票するか自分で決められない、数名で喫茶店に入るとみんな同じものを注文する、自立している人が非常に少ない。僕がへそ曲がりなんだろうけど、そういう個性や反骨精神が僕は大事だと思うんです。

第2回高石友也リサイタルとアングラ・レコード・クラブのリーフレット

■川村輝夫(かわむら・てるお)
1942年大阪府池田市生まれ。1964年京都放送入社。アマチュアミュージシャンの公開オーディションが大きな話題となった「アクションヤング大丸」(1971年~1978年)等、数々のラジオ番組を担当。2000年退社。現在は音楽評論家として活躍。青山記念館バロックザール青山音楽賞選考委員。

※※井筒和幸監督の映画「パッチギ」で「イムジン河」をかけ続けた大友康平演じる京都の放送局のディレクター大友は、川村氏がモデルとされる。但し、プロデューサーを大友が殴るシーンがあるが、これはフィクションとのこと。


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