かわらじ先生の国際講座~在日米軍の駐留経費負担問題

11月17日付「京都新聞」は第一面に「米軍駐留経費5倍要求」という見出しを掲げています。何事が起こっているのでしょう?

同紙の記事によりますと、今年7月にボルトン米大統領補佐官(当時)が来日した際、在日米軍の駐留経費負担を5倍に増やすよう日本政府に要求したのだそうです。もう4ヵ月前の話なのですが、その事実を11月16日、日本政府筋が明らかにした由です。米外交誌「フォーリン・ポリシー」も11月15日の記事で、ほぼ同じ内容を掲載しています。ただ不可解なことに、菅官房長官は11月18日の記者会見で、米国側の増額要求について「そのような事実はない」と否定しています(11月19日付「毎日新聞」)。しかし日米双方から複数の情報が出回っている以上、やはり増額要求があったのは確かだと思われます。

それにしても一気に5倍の増額要求とは極端ですね。今この問題がクローズアップされているのには理由があるのでしょうか?

二つ考えられます。一つ目は、来年がアメリカ大統領選挙の年であること。昨今アメリカでは、米軍の外国駐留は公金の無駄遣いだと思われています。そこでトランプ大統領は日本側にその駐留経費をできるかぎり押し付け、米国民の歓心を買いたいのでしょう。
二つ目は、来年が日米間で駐留経費に関する新協定を結ぶための交渉の年になることです。在日米軍の駐留経費は5年ごとに見直すことになっています。現在の駐留経費は2015年末に合意され、2016~2020年度の日本側負担額は総計9465年億円となりました。すなわち年間2000億円弱の計算です。来年は2021~2025年度の総額を決めなくてはならないのですが、米国は一気に5倍、すなわち次の5年間で5兆円近くの負担を日本側に求めようとしているようです。

とてつもない金額のように感じますが、そもそもこの駐留経費とは何なのですか?日本では「思いやり予算」という言い方もされるようですが、それが何なのか説明してもらえますか?

現在、約5万人の米兵が日本に駐留していますが、当然いろいろと経費がかかります。その全経費の約75%を日本政府が負担しています。つまり米兵に支払われる給料以外は、大部分が日本持ちなのです。具体的には基地の施設整備費、光熱水料金、基地で働く日本人従業員約2万2千人の給料やボーナス、さらには基地内の居住施設やゴルフ場といった娯楽施設の費用等々はみな日本側が支払っています。しかし本来日本には、これらを負担する義務はないのです。

どういうことですか?

日米安保条約に付随する日米地位協定の第24条には、「日本国に米軍が駐留することに伴う経費は(一部の例外を除いて)すべてアメリカ合衆国が負担する」と明記されているのです。ところがベトナム戦争後の1970年代後半になるとアメリカ経済が悪化したため、日本に米軍基地維持のための財政支援を求めてきたのです。そこで日本政府は1978年、日本人基地従業員の福利厚生費の一部である62億円を肩代わりしてあげました。「友人が困っているときは助けるのが人情だ」というわけで、アメリカへの「思いやり予算」という言い方がされた次第です。
しかしアメリカからすれば、日本を守っているのだから、必要経費を日本が出すのは当然だという認識が強まり、その金額もどんどん増加して、いまや1年間に2000億円近い額にまで膨らんだのです。また「思いやり予算」という呼称をアメリカが嫌ったため、公式的には「在日米軍駐留経費」と呼ぶようになりました。

日本はアメリカに守ってもらっている以上、アメリカの言うとおり駐留経費を払わざるを得ないのでしょうか。

問題はそこです。たしかに日米安保条約の第6条には「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため」米軍が日本に駐留する旨記されています。しかし米軍の主要任務は日本の防衛ではありません。

といいますと?

ベトナム戦争時の出撃基地が沖縄であったことはよく知られています。もうその当時から在日米軍は「極東」の範囲を逸脱して行動していました。2003~2011年のイラク戦争でも、米軍は沖縄で訓練を積んで出撃したのです。2000年代に入るとアメリカは、世界の最も危険な地帯を「不安定の弧(arc of instability)」と呼ぶようになりました。東アジアからインド、中東を経て北アフリカに至る地域のことです。そしてこの一帯の安全を確保するミッションを在日米軍が担っているのです。つまり在日米軍基地は、アメリカが自らの世界戦略を展開するための軍事拠点だと言えます。

とすると日本は、アメリカの世界戦略のために膨大な経費負担を強いられているということですか?

そういうことになりますね。これを下宿生と家主の関係に置き換えてみましょう。ふつうは家主が下宿生から毎月家賃を徴収します。しかし日本という家主は、下宿生(米軍)の家賃を只にしてあげたばかりか、毎月10万円以上のお小遣いまで与えているわけです。現実にはあり得ないようなお人よしの家主が今の日本なのです。

日本はアメリカに対してなぜこんなにお人よしなのですか?

なぜなのかは宿題としましょう。一つ自分で考えてみてください。ただ、駐留経費の5倍要求に対しては、日本政府はきっぱり拒否したと伝えられています。果してその拒否を貫けるかどうか、注目しましょう。

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河原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰


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