すっかり秋になりました。食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋・・・。いろんな秋がありますが、あなたはどんな秋ですか?私は、食欲の秋!が主ですが、最近身の回りで話題の本を読み、読書の秋を過ごしました。
新潮新書『ケーキの切れない非行少年たち』(宮川幸治著)を読みました。書店で平積みされていて、タイトルと帯に書かれている絵を見て、とっさに手に取りました。すでに読まれた方もいらっしゃるかもしれませんが、タイトルだけ見ると、何のことだろう?と思いますが、その絵にはとても説得力があり、衝撃的に感じます。
ケーキに見立てた円を、3等分するということができない。
それは、「3兄弟でケーキを平等に分けることが難しい」という以上の意味を持っています。多くの人が、たとえ分度器で測ったように120度ずつに切り分けられなくても、ある程度の3等分はできるはずです。それができないということは、その背景はさまざまな要因が考えます。本書では、少年院等にいる子どもの中には、認知機能が低かったり、それに偏りがあるために、ごく簡単だと思われる課題や指示も、理解ができず回答もできない場合があるということが、分かりやすく書かれています。
そして、その認知機能が低い状態が見過ごされてしまった場合、適切な支援がなされないどころか、理解できないような指示や指導を受け、解ったようなふりをしてやり過ごしたり、ストレスを抱える結果になるということです。
この本のテーマは少年院等にいる子どもたちですが、認知機能に関して支援者や周囲の人の理解が低く、その低下状態が見逃されていることは、一般社会にも当てはめなおして考えることができます。現代社会では、ICTが登場し普及した結果、それが使いこなせる情報リテラシーがないと不便ですし、キャッシュレス決済を理解できないとポイント還元が受けられないなど、社会生活に不自由さや不利益が生じます。生活の中で、さまざまな状況判断をして活動することは、ある程度の高度な認知機能の働きが必要です。
一方で、例えば認知症や、事故等による高次脳機能障害などでは、外見からは症状が分かりにくく、何ができにくく、何ができるのか等、認知機能の働きとその結果を明確に見える状態にはできにくいものです。それ故に、症状や状態を誤解し、当事者にとっては過度や無理な要求をしたり、出来ることでさえも過度に手伝ってしまう場合があります。
認知機能のすべてを、そう簡単には数値化したり、他人が把握することはできません。たった四文字の漢字で表されるそれは、実際は例えば記憶力や遂行力、計算力や推測力など、さまざまな機能が合わさったものです。全容を理解することは難しいことですが、私たちは「認知機能の状態によっては、その人それぞれに暮らしの中に困難があり、支援を必要としている場合がある」という理解と、「どんなふうに物事をとらえているんだろう?」と他者の視点を思いやる気持ちが大切なのではないかと思います。
本書では、普段は私たちがなかなか見聞きすることがない少年院等に医師として勤めた著者の経験から書かれていますが、この本をきっかけに考えられることは少年についてだけでなく、高齢者や障害者の支援について改めて考えるきっかけを得ることができました。
読書の秋、良い本と出合えたと思います。さて、次は何を読みましょうか。
秋の夜長、ついつい没頭して夜更かししてしまいますね。
書籍データ:宮川幸治著 新潮新書『ケーキの切れない非行少年たち』新潮社 (2019/7/12)。