「寒月」は地域医療に尽力した早川一光先生を支えた夫人・早川ゆきさんのエッセイ集。2001年に「わらじ医者の女房」のタイトルで出版されたものを再編集して2016年に出版されています。一光先生の軽妙な文体も味がありますが、ゆきさんの優しい文章が大好きです。
医は算術と揶揄されるお医者さんも少なくない中、若き日の一光先生はかなり困窮した生活をされていたようです。何しろ生まれたばかりの長男が病気で入院することになった時、入院費を払えないからと医療保護を申請されたそうで、医者が申請に来たと担当者がびっくりしたとか。ゆきさんのエッセイでも新婚の頃のエピソードが数多く綴られていますが、特に印象に残っているのが「しまい天神」。実家のお母さんと一緒に出かけた年末の天神さんの市で、ゆきさんが生活に困って質に入れた着物が売られているのをみつけたお母さんが、「これは私が縫うた着物や、天神さんのお引合せや」と言って買い戻してくれたという逸話。事情は一切聞かなかったお母さんの娘への愛情やゆきさんの母への思いが伝わってきます。第二次世界大戦末期に天井板をはずせとの命令が出たそうで、新婚当時に住んだ六畳一間の家には天井がなく、一光先生が当直で不在だった夜、寝ているゆきさんの額に何か落ちてきたと思ったら、鼠だったという「天井から落ちてきた子鼠」も、当時の暮らしぶりが垣間見えます。私が書くと情緒がうまく伝わらないと思いますので、是非ゆきさんのエッセイをお読みください。
ちなみにこのレビューを書く前にざっと「寒月」を見返してみつけられなかったので、2001年の「わらじ医者の女房」に書かれていたようですが、お正月の早川家の様子を描いたエッセイに、祝箸の名前は毎年一光先生が書かれると紹介されていました。いつも筆ペンを携えておられて、色紙や著書などに達筆でサインをされていた一光先生。あの字で家族の名前を書いておられたんだなと懐かしく思い出し、今はどなたが書いておられるんだろう・・・などと思ったりしています。(モモ母)
Weekend Review~「寒月」
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