トランプ政権がロシアに中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄を通告し、プーチン大統領も同条約の履行義務の停止を表明しました。かつての冷戦が再燃したと見ていいでしょうか?
表面的にはそう見えますが、少なくとも3つの点から、冷戦時代とは本質的に異なります。第一に、自由民主主義vs.社会主義という政治理念の対立ではありません。米露ともに、自国の権益あるいは実利をめぐって対抗しているのです。
確かにロシアも体制上は、アメリカと同じ自由民主主義に移行しました。
第二に、米ソ冷戦の時代とは異なり、中国の存在感が非常に増しました。アメリカがIFN全廃条約を破棄した理由の一つは、この条約に縛られない中国が、中距離核ミサイルを着々と製造していることでした。中国抜きの核軍縮条約は、もはや無意味だというわけです。現在、南米のベネズエラは、二人の大統領が並び立つ混乱状態に陥っていますが、ロシアと中国がマドゥロ現職大統領を、アメリカがグアイド新大統領を支援しています。こんなところにも中国は顔を出しているのです。いまや主要な国際問題で、中国が関わらない問題はないと言ってよいでしょう。
はい。アメリカとの貿易問題ではまさに中国が当事者ですし、世界経済は中国抜きで論じられません。
そして第三に、冷戦時代のように味方と敵がはっきりと分かれていないことです。すなわち大国間でも相互依存が相当進んでいて、表向きは対立しながら、その実、裏ではしっかり手を握り合っているという局面が随所に見られるのです。
具体的には?
米中間の貿易赤字問題がその典型です。いまやアメリカにとっては中国が、中国にとってはアメリカが、事実上、最大の貿易相手国です。この貿易がなければ、お互いの経済は立ち行かないのです。経済的にはそれくらい深い相互依存関係にあるのです。米露にしてもそうです。トランプ大統領候補を当選させるため、ロシアが協力したという疑惑がずっと続いていますが「火の無い所に煙は立たぬ」です。両国はINF全廃条約の破棄をめぐって言い争いをしているものの、どちらも核兵器への新技術導入のため、この条約が邪魔になっていたのでしょう。
そうすると、米中露ともに自分の利益に従って、敵・味方の関係をころころと(節操なく)変えるということですか?
そうです。その点が、敵・味方が固定していた冷戦時代と大きく異なります。現にトランプ政権は、防衛費負担の大きさを理由に、NATOからの離脱をちらつかせましたが、冷戦時代には考えられないことです。アジアでもトランプ大統領は、韓国からの米軍撤退を口にしています。日本にもいつまで駐留するか保証の限りではありません。つまり、すべては経済的な実利なのです。それが露骨に現れているのが北朝鮮に対する政策です。
どういうことでしょうか?
トランプ大統領は今月にでも金正恩委員長と首脳会談を行い、米朝関係の正常化を視野に収めながら、良好な関係を築こうとしています。ところが一方で、つい最近アメリカ政府は、イージス・アショアを21億5千万ドル(約2350億円)で日本に売却することを承認しました。このイージス・アショアは北朝鮮の核ミサイルを迎撃するのが目的で、導入に5年を要します。アメリカはなぜ北朝鮮と友好的な交渉を進めつつ、日本に対しては北朝鮮の核攻撃に備えさせることをするのでしょう。理由は単純です。経済的な実利なのです。アメリカは北朝鮮に大きなビジネスチャンスを見て取っています。他方で、日本にも高額の買い物をさせ、アメリカ経済を潤わせたいという計算があるのです。
このままアメリカとの同盟を順守する限り、日本は北朝鮮とはもとより、中国やロシアともよい関係は作れそうにありませんね。
そういうことになります。アメリカはロシア、中国、北朝鮮と表向きは敵対関係にありながら、経済的にはしっかり実利を引き出そうとしていますが、日本には日米同盟の強化を求め、行動の自由を縛っています。しかし、もう冷戦時代ではありません。日本も自立性を持って外交を展開しないと立ち遅れてしまいます。次週は、もっと柔軟な頭で日本外交を見直すことをテーマにお話ししたいと思います。
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