林忠彦という写真家のことは出身地の山口県周南市で24日まで開催されていた「生誕100年 林忠彦展」を紹介する番組を見て、初めて知りました。でも銀座のバー「ルバン」で撮影された太宰治の写真は印象的で、太宰といえばあの写真。林は坂口安吾、谷崎潤一郎、三島由紀夫といった作家や岡本太郎、東郷青児といった画家など日本を代表する人物たちのポートレイトを撮る一方、「カストリ雑誌」と呼ばれた敗戦直後の大衆向け娯楽雑誌に数多くの作品を発表、名も無き踊り子や戦災孤児、サンドイッチマンなど懸命に生きる人々の姿や時代の空気を記録し続けました。
林の作品を実際に観たいけれど、遠方だったのと会期が残りわずかだった為、写真展に合わせて出版されたという写真集「昭和を駆け抜ける」を入手しました。戦後の風景から長崎の海と十字架を捉えた風景写真、がん宣告後、車椅子生活になった後も旧東海道の面影を求めて現場に向かい続けた「東海道」シリーズなど、どの作品も美しく、迫力がありますが、中でも見たかったのが昭和21年に撮影された「犬を負う子供たち」。自分の食べるものもろくにない時に犬に分け与える姿を見て、「こういう優しさをもった子供がいれば、将来の日本はまだ大丈夫だ」と言って、林は「僕の傑作」と記したそうです(写真集の解説より)。貧しくても力強さに満ちていた戦後から小説や絵画などの文化・芸術が成熟していった高度成長期。昭和を凝縮した写真集を手に過ごす平成最後の年末は、「降る雪や 昭和は遠くなりにけり」・・・といったところでしょうか。(モモ母)