自殺予防活動について思うこと

9月,夏休み明けの新学期ということで,子どもの自殺を減少させねばという動きが活発になっています。

他方,20歳以上の大人にも,苦しい死にたい気持ちを抱えながら生きている人が少なからずいます。2016年までに自殺未遂をした経験がある人の55%が、その後1年以内に再び自殺未遂を起こしており,本気で自殺を考えた人の67%は,1年後も同じ気持ちを抱いているという結果が明らかになりました。

Twitterではこのような反応があります。

ここで,自殺はしてはいけないのでしょうか?という根本的な問いに戻ってみます。私は,自殺者が増えているという事実は悲しいやりきれないことだと感じます。私事ですが,青年期に仲の良い友人を自死で喪っています。とても悲しくつらく,いまだに私は「自殺」と書けず「自死」と書き,「去年」と書くときは「去」の文字が怖くて必ず「昨年」と書きます。

では,(1)自殺をしてはいけないのでしょうか。(2)自殺をしようとすることは悪いことなのでしょうか。(3)自殺をしようと考えることは悪いことなのでしょうか。私はどれも必ずしも悪いこととは思えないのです。

(1)(2)については,してしまうときは,本人がしようと思っていなくても,その行為をしてしまうことがありうるからです。また私事ですが,以前かなり精神的にも身体的にもつらかったとき,ホーム柵のない駅で電車に乗ることや乗換をするのが怖かったことがあります。自分は死にたいとは思っていないのに,“ここで飛び込んだら楽になる”と思って「飛び込んじゃえ」と線路が誘惑している気がしたからです。ぎりぎり残っていた理性でこらえましたが,一歩間違えば飛び込んでいました。これは“病死”に近いのではないでしょうか。

(3)については,私は「自殺をしようと考えることは悪いこと」という考えに全力で反対します。なぜなら,個人の思いや感じることまで他者が規制・介入することはできないからです。全力で反対しますというより,そもそも個々人が「自殺したい」「自殺しよう」と思ってしまうのは止められないことです。

ではどうすればいいのか? 「自殺したい」「自ら死のう」の奥に,何があるかを個々に探ることが大切だと私は考えます。上の記事では,希死念慮の原因は「家庭の問題・健康問題・経済的な問題」を抱えている人が19%で最多。「経済的な問題・仕事上の問題・健康問題」(8%)、「家庭の問題のみ」(7%)、「仕事上の問題、家庭の問題、健康問題」(5%)とありますが,実際には同じ「家庭の問題・健康問題・経済的な問題」を抱えている人でも,個々のケースは異なるといえるでしょう。

川野健治先生(立命館大学)は,先日開催された日本パーソナリティ心理学会大会の公開講座「自殺予防教育の課題–全体的予防と個人差」の中で「自殺予防教育は、全体性、正当性を帯びることで辛い経験をしている生徒を排除する可能性はないだろうか。ひとりひとりを見ていくという視点を見失う。結論はこれに尽きます」とおっしゃっていました。

また,「『自殺は社会問題だ。精神疾患だけの問題でない』という厳しい道を日本は選んだ」「自殺をしてはいけないとされている。だから,自殺が起こったらよくないことが起こったとされ,誰かの責任になる。例えば遺族は何してた病院何してたという話になる」「自殺予防教育が全体的になると,自殺はよくないことだから止めよう正そうという気持ちがしのびこむ。それは本人にとって『あなたはダメ。正さないといけない』という批判になる」ということもおっしゃっていました。

「死にたい」「自ら命を絶ってしまいたいほどつらい」と思う人にとって,「自殺はやめましょう」というメッセージは「お前の考えはダメだ」となりひいては「お前はダメだ」と受け止められ,逆効果になるかもしれません。

自殺予防教育や自殺予防啓発のすべてがダメだと私は思っていません。ただ,自殺しないでという啓発活動は,本当に追い詰められた人をさらに追い込む可能性があり,同時に「個」を見ていく視点が必要だと思うのです。

例えばこのような活動をしておられる方がいらっしゃいます。

また,先述した川野先生は,学校における自殺予防プログラムとしてGRIPというものを考えておられます。このプログラムには「自殺」という言葉は1回も出てこないそうです。むしろ「学級づくり,仲間づくり,子どもだけで対処できないときに適切に大人にSOSを出せること」を目標にしています。

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橋本京子
大阪府茨木市生まれ。京都で大学生・大学院生時代を過ごす。現在,心理学関係の研究,大学の非常勤講師をしながら,5歳になる息子の子育て中。「人間は“病的な心理状態を普通の状態に戻す”だけではなくて“もともと個人が持っている長所や強みを生かして,より幸せな人生を送る”ことができる。それは“しんどい”“つらい”時にも発揮される人間の力である」ということを実践,研究したいと考えている。


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