「カナリア俳壇」を開設しましたが、まだ投句数が少ないため、お送りいただいた句にコメントを付ける形で掲載させていただきます。皆さんが作句されるうえで、お役に立つことがあれば幸いです。
◎は大変感心した句、〇はまずまずの句、△はあともう一歩の句です。
作品は到着順に並べました。
河原地 英武
〇 初生りの胡瓜の棘のひややかさ 鈴愛
【句評】感覚的なよい句です。「ひややかさ」と抽象名詞にしますと、詩情がやや弱まります。また、この「ひややかさ」は冷淡な、よそよそしいイメージもありますが、初生りの胡瓜なのですから、もう少し愛でる気持ちがあってもいいかなと思いました。
添削例……初生りの胡瓜の棘のひんやりと
〇 熟れ梅の転がる朝の陶干場 鈴愛
【句評】とりあえず、きちんと描写できています。切れがあるともっといいですね。また、下五を「陶干場」にしますと、せっかくの「熟れ梅」がわき役となり、「陶干場」が主役の句になってしまいます。上五が字余りとなりますが、次のようにしてはいかがでしょう。
添削例……陶干場に熟れ梅一つ落ちてをり
△茅の輪結ふ芦に絡まる葛の蔓 あつた
【句評】これは戸外の情景ですね。周囲には、芦に葛の蔓が絡まっているような湿地帯で、茅の輪を結っている場面を想像しました。「茅」「芦」「葛」と植物が3種類も出てくるため、句がちょっとごちゃごちゃしている感を受けました。また、句の焦点が、「茅の輪結ふ」と、「葛の蔓」の二つに分裂している印象を受けました。カメラマンになったつもりで、「茅の輪」を結っているほうにフォーカスを合せるのか、それとも「葛の蔓」をクローズアップさせたいのか、はっきりさせるとよいと思います。
〇 夏祓長老が結ふ芦の舟 あつた
【句評】興味深い場面です。こういう風習をきちんと俳句に残すことは俳人の大切な役割です。上五と下五が名詞になる形は、俗に「観音開き」とか「サンドイッチ俳句」とかいって嫌われます。ちょっと窮屈な感じになるせいもあるのでしょう。また「夏祓」のような行事の季語は、下五に置いた方が安定するように思います。切れもほしいですね。個人的な趣味ですが「芦」より「葦」の字を使い、次のように添削してみます。
添削例1……長老が結ふ葦の舟夏祓
添削例2……長老が葦舟結へり夏祓
〇 手織場に機音ゆかしけさの秋 マスオ
【句評】情感ゆたかな句ですね。大変けっこうですが、欲を言えば「ゆかし」を別の語にしたいところ。これは「上品で、奥深く、心惹かれる感じだ」という意味の形容詞ですが、できれば作者でなく、読者に言わせたい言葉です。俳句はこのような主観的なことは述べず、事実を淡々と伝えるだけで十分です。そして、それを読んだ人に「ああ、ゆかしい感じですね」と言わせることができれば大成功。
添削例……手織場に機音高く今朝の秋
△ 母から子へ子からその子へ「赤蜻蛉」 マスオ
【句評】「赤蜻蛉」は童謡のタイトルですね。このような歌の名前は季語にならないと論じる人もいますが、ケースバイケースです。秋に歌われることが明らかで、この句も秋を季としていることが万人に明らかであれば、秋の句として私は認める立場です。
この句に△をつけたのは別の理由からです。この句を読むと、何かNHKの番組でナレーターが言いそうなフレーズです。つまり観念的なのです。そんなふうに歌い継がれる名曲だということで、これは一般的な事実でしょうし、今でなくとも、たとえば十年後、二十年後でも作れてしまいそうな句です。俳句は、現在只今を切り取る詩。二度と戻らない「今」を形象化するのが俳句の醍醐味だと感じております。例えばこの歌を今、幼子に歌っている母の姿を具体的に描くのも手ですね。
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスはefude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。