7月初旬に、文部科学省の局長が、東京医科大学が私立大学への助成金に選定されるよう便宜を図る見返りに、自身の息子を不正に入学させてもらったという事件が報道されました。東京医科大学の理事長・学長は容疑を認めているそうですが、局長は否認しているという報道もあります。
こちらの記事に事件の関係図も含めた説明があります。
文科省汚職、助成金獲得で「箔付け」 少子化が引き金 https://t.co/xpa7mjb2xK
— 日本経済新聞 電子版 (@nikkei) July 5, 2018
さてこの事件、さらに広がるのではないかという報道もあります。
【東京医大 過去にも裏口入学か】東京医科大学への支援事業を巡り文科省局長が逮捕された事件で、同大学について複数の関係者が「過去にも役人の子どもを裏口入学させていた」などと証言。検察は組織的関与について捜査。 https://t.co/DkfT5aU0f1
— Yahoo!ニュース (@YahooNewsTopics) July 11, 2018
文科省前局長の息子を「不正合格」させたとされる東京医科大学が、過去にも不正合格させた受験生の“裏口入学リスト”を作成していたことが発覚。リストには大物政治家の名前が記されているとのウワサもあり、政界に飛び火する可能性も出てきました。日刊ゲンダイのお求めは駅売店かコンビニで! pic.twitter.com/GsfCjkZjia
— 日刊ゲンダイ (@nikkan_gendai) July 14, 2018
全容解明はこれからですが、この事件には大学をめぐっての2つの背景があると考えます。
ひとつは、理事長・学長によるトップマネッジメントを強めて、教授会に代表される大学構成員による合議を排除する流れです。2014年に学校教育法が改正されたのを受けて、多くの大学で教授会が審議・助言機関になり、決定権は学長に集約されました。そもそも入試業務は、ミスを防ぐために何重ものチェックを経ていく必要があります。そのため多くの教職員が関与するものであり、不正をするような余地は普通はありません。しかし、教授会が単なる助言機関であり、大学のトップが入試結果を決めるなら、今回のような不正が起こりやすくなるでしょう。
研究不正のもみ消しや、裏口入学の実現は、学長のリーダーシップにもとづくガバナンス改革の最大の成果。
改革の足を引っ張る悪の組織呼ばわりされる教授会こそ、監視役を務められる唯一の機関だった。その権限を排除して、その代わりに大学統治システムに入り込んできたのが天下り官僚である。— 増田の准教授 (@ProfMasuda) July 5, 2018
もう1つは、大学財政をめぐる変化です。大学への交付金や補助金などは、基盤経費と競争的資金からなります。基盤経費は学生の人数等に比して交付される経費です。競争的資金は文字通り、大学が競い合って獲得する経費です。基盤経費は年々削減され、大学は競争的資金を必死に獲得しなければなりません。
競争的資金の争奪戦の「勝者」は、大学から出される申請書を審査して決めるのですが、今回の事件では、局長が選定に不正に関与したという容疑がかかっています。
なお、事件の舞台となった「私立大学ブランディング事業」に、加計学園の大学が2つも選ばれていることを疑問視する声もネット上にあります。ただ個人的には、2つ選ばれているというだけで、不正な忖度があったとまでは言いにくいかと考えます。それよりもむしろ、政府が主導する「トップマネッジメントによる大学運営」という方向性に、加計学園の大学は相性が良かったのではないかと推測します。それが、学問の自由や学生の学ぶ権利という観点から見て、良いことなのかはわかりませんが。
その加計学園で、岡山理科大学の獣医学部を視察した早稲田大学法学部の水島教授のコラムが話題になっています。
大学なのに専門書がない、と。 / 他8コメント https://t.co/rR47SrXIMg “直言(2018年7月9日)「ゆがめられた行政」の現場へ—獣医学部新設の「魔法」” https://t.co/YUEW7wGXtU
— 渡辺輝人 (@nabeteru1Q78) July 11, 2018
そしてネット上にはこんなネコちゃんの発言も…
(Facebookページ「主張するネコたちのこと」より)
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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。