高齢期の暮らしと住まい(17)

「我らがパラダイス」林真理子著/毎日新聞出版(2017年

小説は事実より奇なり?

先日450頁超の小説を半日で一気に読みました。昨年刊行された林真理子氏の「我らがパラダイス」。タイトルとは反対に介護や老後格差の問題が主題と言えるでしょうか。途中からストーリーは奇想天外(?)になっていくものの、心が痛むシチュエーションとセリフは現実そのものと感じました。主人公は、50歳前後の女性3人。それぞれ身内に介護問題を抱えることになるのですが、この3人が偶然出会うことになるのが、皮肉なことに超富裕層高齢者が悠々自適に暮らしている有料老人ホーム。ここでの暮らしぶりは、決して誇張されているのではなく、筆者自身が今まで見てきた富裕層向け老人ホームの風景と決してかけ離れていません。

 

入居一時金が億円単位の高級有料老人ホームは高級ホテル並みの設備とサービス

老後格差

すでに様々なメディアでも取り上げられるように「老後格差」の現実、そしてさらに進むであろうこれからの格差。小説の中では、着飾った高齢者達が湯水のようにお金を使う場もあれば、介護や病気のお金を毎日気にする主人公たちの場も出てきます。主人公のひとりは親の介護施設を探そうとして、次のように描写されます。「チヅは歩行が不自由になったものの、頭はとてもしっかりしている。(中略)、あと20年は生きるのではないだろうか。だったら入居金を多く入れ、月々の支払を軽くしたほうがいい。それとも…、と考えているうち、朝子は自分にぞっとする。母をこれほど愛しながら、あと何年生きるだろうかを予想し、入居金をどうしたらいいかという計算をしている。」おそらく子世代のほとんどは、同じことを考えると思います。

 

介護施設にはトイレの仕切りがカーテンなどプライバシーに配慮がないところはいまだある

ベースにある社会保障の課題

小説の内容はあまり詳しく語れませんが(;’∀’)、では超富裕層高齢者達は幸せなのかというと、彼らも様々な問題を抱えています。それでも自己資金力によって生存権を脅かされてはいない。資金のない要介護者、その家族は仕事とのバランス、頼りにならない介護保険や品質レベルの低い施設への妥協、など、ある意味「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」である生存権が確保できていないともいえます。「介護保険制度があるからなんとかなる」といえない現実を、上手く表している小説だと思いました。一方で、社会的支援を求めてもキリがありません。「自分でなんとかする」という意識も大切であり、できない「限度」を一般常識的に見極め社会保障を整備することは必須と感じます。

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山中由美<エイジング・デザイン研究所>
大学卒業後、商社等を経て総合コンサルティング会社のシニアマーケティング部門において介護保険施行前から有料老人ホームのマーケティング支援業務に携わる。以来、高齢者住宅業界、金融機関の年金担当部門などを中心に活動。2016年独立。

 


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