介護保険制度が始まる少し前、大嫌いな母親と同居し始めたという女性が相談に訪れました。おむつを外せないように、つなぎの寝巻きが欲しいと言うので、理由を尋ねると、朝になると母親の枕が濡れているのだそう。枕を取り替えても取り替えても濡れるというのです。夜中に目覚めたお母さんが白い枕を和式便器と間違えるとか、寝相が悪くて枕のところで排尿するとか、腰痛を和らげるため枕を当てて寝るとか、原因がわからないと解決策をたてられません。「原因を探るために添い寝をしませんか? 」と提案したのですが、「大嫌いな母親と一緒に寝るなんて」と受け入れてもらえませんでした。その後「また濡れている」と言って来られ、「添い寝しましょうよ」といった押し問答を数回した後、今度はニコニコしてやって来られました。ずっと枕が濡れて困るので仕方なく添い寝してみると、添い寝をした日は濡れなかったので、嬉しくてずっと添い寝をしているうちに、お母さんが初めて「世話になってすまんなぁ」と。その女性は泣きながら「親からこんなことを言われたのは初めてです」と言っていました。結局、枕が濡れた原因は謎のままです。お母さんだって関係の悪い娘さんの世話になるのは嫌だったでしょう。でも、枕が濡れたことがきっかけで母娘の和解が成立した。排泄ケアはとても大変だからこそ、こんな風に人と人の関係まで変えて行くんですね。※「カナリアに聞く～浜田きよ子さん」で書ききれなかった排泄にまつわる話を、毎月紹介していきます。排泄に関する相談は排泄用具の情報館「むつき庵」まで。