俳句エッセイ~ 俳句の楽しみ

1 なぜ俳句をやるのか!?
最初に俳句を作ることの意義を述べてみたい。それは三つほど挙げられるように思う。第一は、日本の伝統文学に連なり、それを継承しているという自負である。今日の俳句と短歌は、万葉集以来の詩歌のいわば「最終形態」ではないか。特に季語を重視する俳句は、古典文学が培ってきた日本語の美を引き継いでいる。歳時記に掲載されている季語は最も洗練された日本語の宝庫といってよい。さらに俳句は、日本の古典的な習い事と連動している。茶の湯、書道、生け花、和食、着付け等を学んでいる人たちが、たしなみの一つとして俳句をしていることもそれを裏付けている。また、歳時記には数多くの日本の伝統行事が載っているが、それに参加し、俳句として記録に残すことにより、古来の習俗の維持に寄与していると思われる。

第二は、志を同じくする友が得られるという効用である。本格的な俳句入門は結社に加入し、毎月句会に出て切磋琢磨することだが、そこで多くの句友ができる。高齢者になっても、こうした同好の友を新たに作ることができるのは、人生における僥倖と言うべきではないか。句友とは定期的に、吟行を称する作句を目的とした小旅行を行うが、その楽しさも格別で、しかも健康増進に役立つこと間違いなしだ。

第三は、純粋な創作への情熱である。俳句は和歌以来の伝統を継ぐ古典定型詩だが、決して古びない。古来の様々な仕来りを守りながら、絶えず新味を求め、二十一世紀にふさわしい新たな境地を開拓している。今や俳句の愛好者はグローバルに広がっており、「ハイク」はそのまま世界の共通語として通用している。ちなみに諸外国の俳句(欧米ではそれぞれの言語による三行詩を「ハイク」と呼ぶ)は、その極端な短さや象徴性、言外に広がる余情の重視、さらには禅などの思想と相まって、前衛詩として位置づけられている。

2 わたしの俳句開眼
わたしは初学のころ、先輩俳人に俳句の骨法を実地に教えてもらった。もう四半世紀以上も前のことだが、当時、わたしが入会した「伊吹嶺」のホームページには添削コーナーがあって、俳句を始めたばかりのわたしは次のような句を投じた。

炎天に腕を隠して画筆もつ

通勤バスのなかから見た景なのだが、炎天下の河川敷でスケッチをしている人が目にとまったのである。日焼け防止なのだろうけれど、両腕をしっかりとガードした長袖の服がいかにも暑そうで、そこに興が湧いたのだった。

この句を読んだ添削担当の同人は「言いたいことはわかりますが、これはまだ俳句ではありません。説明です」と指摘し、

炎天や長袖シャツの路上画家

という添削例を示してくれた。「なるほど、これが写生なのか」と、わたしは目から鱗が落ちた思いがした。もう一例挙げたい。伊吹嶺のある句会に、

早春や木炭画描く美術室

という句を出した。少し点は入ったが、美術室だと意外性がなく、今一つ面白みに欠けるとのコメントもいただいた。そこで後日推敲し、

早春やパン屋に裸婦の木炭画

と大きく改変してみた。早春の明るさと瀟洒な雰囲気が出て、上々の句になったのではないかと気に入っている。

どちらの場合も動詞を省いたところがポイントである。俳句は短い。だから理屈を述べたり、物事の説明をしたりすれば、すぐに字数は尽きてしまう。画家が絵筆でぽんぽんと色を置くように、われわれもまた言葉をいくつか置くだけで充分である。こんなふうにして、俳句とは言葉による写生であると自得し、今日に至っている。

3 前衛文学としての俳句
俳句は写生が基本だとされるが、むろん絵画のように精緻に描写することはできないし、写真のようにすべてを洩れなく写し取ることも不可能である。俳句には絵画や写真では描き出せない独自の表現法がある。「俳句は引き算の美学だ」との言い方もあるが、思い切った省略法と象徴性が身上だ。それが時には現実にはあり得ないシュールな世界を現出させる。われわれ俳人は、日本語固有の表現法を最大限活用し、いわば日本語のマジックを駆使して、独自の世界を創ろうと日々精進している。

最後に、こうした日本語のマジックが遺憾なく発揮されていると思われるわたしの愛唱句をいくつか紹介しておきたい。常識や理屈を超えた不思議な世界だが、ここには確かに存在感(リアリティー)と詩情がある。ふけとしこさんの句は、ウクライナ戦争を念頭に置いての作かと思われるが、ここにはだれかを責めたり、戦争を糾弾したりする調子は微塵も見られない。敵味方関係なく、死にゆく兵士たちを心優しく悼んでいるのだ。

かたつぶりそろそろ登れ富士の山    小林一茶

ちるさくら海あをければ海へちる    高屋窓秋

露地裏を夜汽車と思ふ金魚かな     攝津幸彦

戦車傾く銀河を渡り損ねしか      ふけとしこ

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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。 同大学院修士課程修了。 専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。 俳人協会会員でもある。 俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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