はや12月も上旬から中旬にさしかかろうとしています。なにかと気ぜわしい日々ですが、こんな時にも句心を忘れずにと自らに言い聞かせています。
△訓練の安否確認ねんねこ着 瞳
【評】俳句で「ねんねこ」というと、赤ん坊をすっぽり包むための防寒具を指しますが、自解を読むと「半纏」のことですね。何の訓練かも示したいところです。「半纏を着て消防の訓練へ」としておきます。
△~〇一羽飛びもう一羽去り冬の鳥 瞳
【評】「飛び」と「去り」がややうるさい感じです。「冬鳥の一羽が去りてまた一羽」くらいでどうでしょう。
〇朴落葉沢をかくして水の音 作好
【評】「沢」と「水の音」は1セットですのでできるだけ離さずに書くとさらによくなりそうです。たとえば「朴落葉覆へる沢に水の音」など。
△~〇赤蕪の抜き菜を生かし味噌汁に 作好
【評】「生かし」が観念ないし説明となっています。もっと即物的に述べましょう。「赤蕪の抜き菜を刻み味噌汁に」など。
△~〇野天湯に落葉分け入る朝かな 美春
【評】「分け入る」がどうでしょう。「朝」に感動の焦点を持ってくるのも今一つでしょうか。「野天湯に入るや落葉を掻き分けて」としてみました。
〇~◎垣越へて湯船覗くや冬の薔薇 美春
【評】俳諧味のある句です。「越えて」と表記してください(終止形は「越ふ」ではなく「越ゆ」ですので)。
△街アート若者溢れて秋の昼 ゆき
【評】まず三段切れですね。また、「わかものあふれて」は8音。上五や下五の字余りは許容範囲ですが、中七の字余りは厳禁と覚えておいてください。上五が字余りになりますが、「街アートに若者溢れ秋の昼」としておきます。
○柚子捥ぐや柔肌トゲにみみず腫れ ゆき
【評】もう少し読みやすく推敲しましょう。「柚子捥げばトゲに柔肌みみず腫れ」。
○厚み増すお薬手帳十二月 徒歩
【評】事実を素直に詠んだ句で結構です。あとはもう少し詩情や俳諧味がほしいところですが、難しいですね。「十二月お薬手帳ふつくらと」では伝わりませんかねえ。
○一茶忌や己が鼾に目を覚まし 徒歩
【評】面白い句ですので、季語にはあまり意味を持たせない方がすっきりしそうです。たとえば「年の瀬や」などもう少し考えてみてください。
◎日脚伸ぶ勧請吊りし村境 妙好
【評】勧請吊は本来正月の行事なのだそうですね。ですから季語も正月以降のものがふさわしく、「日脚伸ぶ」でぴったりです。のどかな村の風景が見えてきます。
〇~◎能面のふいに笑みたり冬薔薇 妙好
【評】季語のせいで、いざ解釈しようとすると難しい句ですが、不思議な感覚をもたらします。
〇ばうばうと汽笛や響く冬隧道 白き花
【評】ユニークな句ですが「冬隧道」という季語はありませんので、「ぼうぼうと汽笛が冬の隧道に」としてみました。
〇~◎抜き立ての大根おでんに旨からう 白き花
【評】「大根」は「おおね」と読むのですね。実感がこもっていて結構です。下五を口語調にするなら「旨さうな」とするのも手です。
〇~◎故郷や雪の乗鞍見て飽かず 恵子
【評】故郷讃歌ですね。「乗鞍」という具体性が大変結構です。
◎仰ぎては手の平に受く故郷の雪 恵子
【評】「故郷」と書いて「さと」と読むのですね。「郷」でもいいと思います。郷里に帰ってきた安堵感と嬉しさがよく伝わってきます。
〇~◎こきりこの調べ哀しや炉の明り 万亀子
【評】「哀し」と感じたところが万亀子さんの感性なのでしょう。雰囲気のある句です。
△~〇冬晴や軒端に吊るす唐辛子 万亀子
【評】唐辛子は秋の季語なので、季重なりが気になります。秋の句にして、上五をたとえば「晴天や」とか「青空や」とかに差し替えるのも一法でしょう。
〇冬夕焼船を見送る母の影 椛子
【評】雰囲気のある句ですが、今一つ状況があいまいです。まず何の船でしょう。また夕焼の中で母の影(シルエット)が浮かぶということは、作者は船を見送る母の後ろに立っているのですね。自分が船に乗っていて、母が見送ってくれているのであれば、「見送りの母ちさくなる冬の航」でしょうか。あるいは「冬夕焼母の見送るいさり舟」など、もう少し考えてみてください。
△~〇初雪や燈台の灯に眠る島 椛子
【評】夜の景色ですね。とすると「初雪」の「初」が十分に生きないように思います。たとえば「天草の島の燈台雪照らす」など、もう一工夫できそうですね。
△ひよいひよいと朝日まるめて落ち葉掃く 永河
【評】「ひよいひよいと」がどうでしょう。また「朝日まるめて」もわかりづらく感じました。うまく添削できませんが、たとえば「日の光裏返しつつ落葉掃く」など。
△~〇大き口開けて腹まで冬日燦 永河
【評】シュールな句ですね。腹の中まで冬日が差したという意味でしょうか。なぜ大きな口を開けたのかがわかるといいと思います。「胃の腑まで冬日さすほど大あくび」と考えてみました。
〇~◎木枯や小魚たちは瓶の底 のり子
【評】おもしろい句です。小魚は瓶の底に沈んでいるので木枯が吹いても平気ですね。
〇~◎冬浅し喉を鳴らして猫二匹 のり子
【評】いい感じの句です。季語も情景によく合っていると思います。「鳴らして」だと少し切れが入ってしまいますので、「冬浅し喉鳴らしをる猫二匹」くらいでどうでしょう。
次はいよいよ年末ですが、12月30日(火)の掲載となります。前日29日(月)の18時までにご投句いただけると幸いです。
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