にわかに気温も下がり、一気に冬がやってきた感じですね。皆様、どうぞご自愛ください。わたしも気持ちを引き締めて過ごしたいと思います。
△柿たわわ採る人なき鳥の声 作好
【評】まず中七が一音足らず、字足らずになっていますね。また、「柿たわわ」と「採る人なき」の2か所で切れていますので、「三段切れ」の句となっています。「鳥の声」も漠然としていますので、具体的な鳥の名を入れたいところ。「たわわなる柿そのままに鴉啼く」としてみました。
〇リフト降り山頂花野風にゆれ 作好
【評】気持ちの良い景が思い浮かびます。「山頂」と「花野」に重複感がありますので、「山頂」をカットします(「リフト」から想像がつきそうですし)。「リフト降り風の中なる花野へと」としてみました。
〇冬座敷古き良き日を語らひぬ 瞳
【評】しみじみとした情感が伝わってきます。「古き良き日」が少し漠然としているかもしれませんね。「冬座敷父母ありし日を語らひぬ」とするのも一法でしょうか。
△~〇あの白髪だれと聞く人木の葉髪 瞳
【評】「白髪」という語がありますので、「木の葉髪」との重複を感じます。季語を生かすなら「白髪」は消したいところです。また、同窓会の場面であることも示したいですね。とりあえず「同窓のあの人はだれ木の葉髪」としておきます。
〇夕影に一輪映ゆる帰り花 美春
【評】美しい句ですが、いまひとつ具体的な景が立ち上ってきません。たとえば「夕影の畦に一輪帰り花」とするなど、もう一工夫してみてください。
〇~◎侘助や辻󠄀の地蔵を終とせり 美春
【評】侘助もいよいよ辻の地蔵に残るのみとなったのですね。下五の「せり」は切れが強く、上五の「や」と合わせると切れが二つになってしまうので、「侘助や辻の地蔵を終として」くらいでいかがでしょう。
〇~◎明らめる比良の山並神迎 徒歩
【評】比良も古代から修験の場とされ、独自の神がおられるのでしょう。それを迎える気持ちが表れています。さらに厳かな感じを出すなら「明らめる比良の山麓神迎」とするのも手でしょうか。
◎みづうみで洗ふてのひら神渡し 徒歩
【評】「神渡(し)」は神無月に吹く風のこと。この季語との相乗効果で、湖で掌を洗っているのが神のようにも思えてきます。スケールが大きく、おおらかな句です。
◎日短や背中押さるる降車どき 白き花
【評】「日短」でなく「短日」ですね。満員電車に乗っていると、こんな場面があります。都市部における冬の日暮れ時の雰囲気がよく出ています。
〇~◎パンクした自転車引きて大夕焼 白き花
【評】哀愁たっぷりの句です。「パンクした」が口語ですので、「引きて」も「引いて」と口語にそろえ、「パンクした自転車引いて大夕焼」でどうでしょう。もう少し改まった感じにするなら「パンクした自転車を引き大夕焼」。
〇種ふくらむや朝顔の蔓解く ゆき
【評】種を取ろうとしている場面ですね。いきなり「種」だと何の種かわかりませんので、最初に「朝顔」をもってきて、「朝顔の種ふくらむや蔓解く」でいかがでしょう。
△~〇菊供ふ地蔵の頭に馬の顔 ゆき
【評】馬頭観音のことでしょうか。中七が字余り(中八)になっていますので、そこを何とかしたいところです。とりあえず「馬の顔乗せし地蔵に菊供ふ」としておきます。
〇恐竜の迎ふる駅や初時雨 万亀子
【評】もしかすると福井駅でしょうか。町おこしの一環ですね。このままでも結構ですが、恐竜をもう少し具体化するなら「駅前のティラノサウルス初時雨」とする手もありそうですね。
〇落人の住みし村里山装ふ 万亀子
【評】風情を感じさせる村里ですね。「住みし」と過去形にすると、今はだれも住んでいないように感じますので、裔(すえ)が住んでいるという形でいかがでしょう。また、「村里」と「山」というふうに地理的な語が重なるとくどくなりますので、下五も一工夫してください。一例として「落人の裔の村里夕もみぢ」など。
◎一杯の白湯に緩びし霜夜かな 妙好
【評】ほっと一息という感じでしょうね。戸外は寒くても、部屋の中は温かそうで、読者の気持ちもほぐれます。
△~〇夫逝けりいつか逝く吾も露の玉 妙好
【評】切々とした思いが伝わってきますが、「逝」の字が2回も使われると、読み手は心が苦しくなってしまいます。うまく添削できませんが、ひとまず「亡き夫のもとへいつかは露の玉」としておきます。
〇川べりにかすかな波や紅葉散る 恵子
【評】しっかりとした写生句ですが、「かすかな波」は視覚、「紅葉散る」も視覚でとらえた景で、どちらに目を合わせているのか曖昧です。波の方は聴覚にして、「川べりに波音かすか紅葉散る」としてもよさそうです。
〇朱の橋の映る川面や番鴨 恵子
【評】写生句としては文句のない出来栄えです。ただし、この風景は割と類型的で、似た句がけっこうあるかもしれません。
△稲架に架く夫の掛け声雲ひとつ チヅ
【評】「架」という漢字が2つあるのと、「架」と「掛」の意味的な類似性も気になりました。また、「雲ひとつ」がとってつけたようです。原句から離れますが「稲掛ける夫はよいしよと声高く」と考えてみました。
〇出会ひたる猪に動かぬ児と犬と チヅ
【評】なかなか怖い場面ですね。このままでも結構ですし、「出遭ひたる猪に児と犬身を固く」とする方法もありそうです。
△~〇屏風絵か硝子にうつる庭紅葉 智代
【評】窓ガラスなら透かすことになるので、部屋の奥のガラス戸に映ったということでしょうか。少し構造が複雑な気がします。「屏風絵」という比喩はやめて(「屏風」は冬の季語)、「奥の間の硝子に映ゆる庭紅葉」としてみました。
〇吹き溜まる落葉にまぎる山繭蛾 智代
【評】山繭蛾は保護色として、枯葉色をしていることが珍しくないので、この句にも意外性がありません。何か読者をハッとさせる要素がほしいですね。「落葉より歩き出したり山繭蛾」など。
〇窯めぐり蔓梅もどき垣根這ふ のり子
【評】「窯めぐり」をカットして、もっとすっきりとした句にしましょう。「窯垣を蔓梅もどき這つてをり」としてみました。
〇秋の旅マスク外して汽車の中 のり子
【評】「マスク」は冬の季語ですが、これは秋の句としていただきます。このままですと三段切れになりますので、「秋の旅マスク外せる汽車の中」としてみました。
△~〇冬ぬくし色をつむぎし節子像 布有子
【評】「三岸節子記念館」と前書きがあります。これは三岸節子の自画像でしょうか。「色をつむぎし」の意味がよくわかりませんが、編み物のようなタッチだったのかなと推測します。たとえば「冬ぬくし朱色重ねし節子像」など、もう少し具体的な描写をしてみてください。
〇~◎苔庭の飛び石白み冬に入る 布有子
【評】「起宿林家日本庭園」と前書きがあります。感覚的な句で結構です。「苔庭の石白々と冬に入る」とすればさらに風情が増しそうです。ただし、初冬に物が白く見えるというのはやや類想的です。
〇山里に人声絶えて木の実降る 永河
【評】静かな秋の山里の風景が髣髴とします。やや散文的ですので、もう少し表現が凝縮できるといいですね。とりあえず「こゑひとつなき山里に木の実降る」としてみました。
〇手を広げ銀杏黄葉の下に立つ 永河
【評】散り継ぐ銀杏の葉をつかもうとしているでしょうか。気持ちが伸びやかになる句です。「手を広げ銀杏黄葉の散るなかに」とするのも一案でしょうか。
次回は12月9日(火)の掲載となります。前日8日(月)の18時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
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