南京事件など旧日本軍の残虐行為の背景

高市内閣で文部科学大臣になった松本洋平氏について、南京事件を捏造だとする映画に「賛同者」として名前を連ねていたということが指摘されています。


9月4日の記事でも書きましたが、南京事件は世界的に確認されている歴史的事実で、それを否定する人が文科大臣とは恥ずかしいです。
昨今は教育への様々な圧力もあり、昭和48年生まれの私が学校で習った戦争の歴史(特に諸外国に対する加害の歴史)を十分に学ばないこともあるようです。他方で個人的には、かつての歴史の教え方が十分とは思っておらず、そのことが一部の政治家等による歴史修正主義的動きにつながっているような気もします。戦時中の男子学生のイラスト
昭和から平成初期の学校教育では、「旧日本軍が~という残虐なことをした」、「欧米の戦勝国とは振る舞いがだいぶ異なっていた」ということは習いました。しかし、私が知る範囲では、なぜそのようなことをしたのかの説明はありませんでした。こうなると、「当時の日本人は英米人等と比較して、野蛮だった」ということになり、納得しない人がいても不思議はありません。「捏造だ」という主張に惹かれてしまうのも、間違ってはいますが、わからなくはないところがあります。
9月4日の記事で紹介した動画にも出てきますが、南京事件をはじめとする旧日本軍による虐殺や暴力、略奪の背景には、十分な準備や調整をせず、精神論だけで無謀に突き進んでいったという背景があります。食料の補給もなく、いつも現地調達を旨としていました。南京事件は冬に起きましたが、旧日本軍の兵士は夏服を着ており(冬の準備をしていなかった)空腹と寒さに苦しんでいました。だから、現地の人々の家で暖を取り、食料を得ようとしました。とはいえそれは現地の人々が命をつないでいる食料や生活必需品ですから、人々は当然、抵抗します。旧日本軍兵士も命がけです。そして略奪、暴力、虐殺がおきました。米軍などがそのようなことをしなかったのは、本国から十分な食料等の補給があったからです。「日本人は残虐でアメリカ人は紳士的な人間」だからではありません。
■こういう背景を学べば、なぜそのようなことが起きたのかが理解しやすくなります。未来に向けて、具体的な反省もできます。私たちだって同様の状況に置かれれば、当時の日本軍兵士のように他者を殺して食べ物を得ようとする可能性は普通にあるでしょう。私たちは歴史とつながっています。
5月1日に万博関連の話題で、政治家が無茶なスローガンや期日を勝手に設定して、様々なことを強行することについて書きました。この国は今も、南京事件を引き起こした時のメンタリティ(気合だけで無謀に突き進むこと)を卒業できていないと思うことが少なくなくあります。
高市氏が総裁選挙に勝利した後、かつて無謀な「大学入試改革」を推し進めて行った人物が、文部科学大臣への再任をめざしているという噂が、SNS上で流れていました。噂の真偽は不明ですが、結局は松本氏の初入閣となりました。南京事件を捏造と考えているという松本氏は、あの無謀極まりない大学入試改革とその頓挫の経緯についてどのように考えているのか、聞いてみたい気がします。日本の教育政策は往々にして、気合至上主義で進んでいます。その結果として今、学校の先生になろうと思う人がいなくなってしまいつつあるような状況が起きているのですから。
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西垣順子<大阪公立大学 高等教育研究開発センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「学生と考えたい『青年の発達保障』と大学評価(晃洋書房)」(編著)など


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