涼しさを飛び越して一気に寒さをおぼえるこの頃です。晩秋の気配が濃厚になってきました。今年の立冬は11月7日。今しばらく秋を惜しみながらの句を作りたいものです。
〇螳螂の鎌をまねたる児の構へ チヅ
【評】ひょうきんな子供ですね。拳法でも蟷螂拳というのがあるようです。すなおな詠みで結構です。
△~〇初秋や鷺の来ているドアのさき チヅ
【評】「来てい(ゐ)る」はこちらに向かってくるイメージ、「さき」は向うへ行くイメージで、少しちぐはぐです。「玄関のまへに鷺をり秋初め」くらいでどうでしょう。
△~〇秋の朝読書に風が本捲る 作好
【評】すがすがしい秋の朝の風情が伝わってきます。「読書」と「本」は離さずワンセットにしたいところです。「読みさしの本めくる風秋の朝」としてみました。
〇里芋の葉っぱの臍の深きかな 作好
【評】里芋の葉っぱの臍を見たことはありませんが、発見のあるユニークな句です。「葉つぱ」と書きましょう。俳句では平仮名は例外なく大きく表記します。
○キューポラの消えし更地やねこじゃらし ゆき
【評】「キューポラのある街」という題の映画もありましたが、今は鋳物産業も衰退しましたね。郷愁をさそう句です。「ねこじやらし」と表記してください。
〇たわわなる獅子唐いつも膳にあり ゆき
【評】このままですと、獅子唐が膳にたわわに実っているみたいです。たとえば「豊作の獅子唐いつも膳にあり」とすれば問題なく鑑賞できそうです。
〇芋虫に平らげらるる庭の小菜 美春
【評】「平らげる」というのは全部食べてしまうことなので、「らるる」という過程の表現にせず、過去形でよいと思います。「芋虫に平らげられし庭の小菜」。
〇里歩き沢水掬ぶ残暑かな 美春
【評】「里歩き」が名詞なのか、「里を歩いて」という動詞で使われているのかが不分明です。下五を「かな」にしていますので、句の途中に切れを入れず、たとえば「山里の沢水掬ぶ残暑かな」くらいでどうでしょう。
〇地蔵背に紅澄みまさる曼珠沙華 瞳
【評】「秋澄む」という季語がありますので、曼殊沙華など別の秋の季語を使う場合は、「澄む」という語を併用しない方がいいでしょう(季重なり気味になりますので)。「地蔵背にいよいよ紅し曼殊沙華」としてみました。
○~◎秋祭海ゑ繰り出す女衆 瞳
【評】野趣あふれた句です。この力強さは海辺の地方ならではのものかもしれませんね。「海へ」としてください。
◎襟足に塗香を薄く十三夜 徒歩
【評】まるで平安の世にタイムスリップしたような典雅な句です。「薄く」と「十三夜」がよく合っていると感じました。
〇封筒の少し膨らむ夜半の秋 徒歩
【評】たしかに手紙などを封入すると、空気も入ってしまい封筒が膨らむことがありますね。封筒がなぜ膨らんだのか、一読したとき少し悩むので、「膨らめる封書を押せる夜半の秋」などとするのも一法かもしれません。
△~〇鰯雲時の流れにほどけゆく 白き花
【評】「時の流れに」という観念的な表現が俳句にはそぐわない気がします。「刻々とほどけてゆけり鰯雲」「鰯雲だんだん解けゆきにけり」などご一考ください。
〇~◎大夕焼翼広げて落つるかな 白き花
【評】詩的な感性でとらえた夕焼の句。こうした大きく飛躍した表現はとても魅力的です。下五「落ちゆけり」とすると壮大さがさらに増すように感じました。
◎更待や夫の遺ししウイスキー 妙好
【評】わたしはまだ「更待」という季語を使ったことがありませんが、『俳句歳時記 第五版 秋』で調べると、「寝待月よりもなお遅れて出るので、夜の更けるころまで待たねばならない。月はもう半ば欠けて光もほのかになり、寂しさがつのる」とありました。まさにこの句の状況にぴったりですね。しみじみと鑑賞しました。
◎霜降や赤の色濃きルイボステイ 妙好
【評】和風の季語と独特な紅茶の取合せが絶妙です。「ルイボスティー」と表記したほうが一般的かと思います。
〇大屋根に葵の紋や秋高し 万亀子
【評】歴史的な建造物を見学されたんでしょうね。この葵の紋はたぶん瓦にあったのではないでしょうか。とすれば「秋高し葵の紋の軒瓦」とする手もありそうです。
◎干されたる味噌桶かすめ秋燕 万亀子
【評】戸外に出された味噌桶と秋燕の対比が結構です。燕もいよいよ旅立つころ、秋の空気も感じます。
◎湖をわたる秋風おやき食む 恵子
【評】おやきといえば信州のソウルフード。松本市出身のわたしもよく食べたものです。伸びやかな気持ちにしてくれる句です。
◎馬の頬撫でて調教風さやか 恵子
【評】調教とはいっても、頬を撫でるやさしい所作がいいですね。季語もぴったり。
◎秋の蜂花粉だんごのぷつくりと 智代
【評】珍しい場面を見られましたね。平仮名を多用した明るい雰囲気が魅力の句です。
◎顔見世の手拭撒きに諸手あげ 智代
【評】観客が手拭いを取ろうと両手をあげているのですね。しっかりとした写生句です。
◎能管のひびく二ノ丸薄紅葉 椛子
【評】「二ノ丸」ですからお城での秋祭の様子ですね。着実な吟行句で結構です。
○大水車朝霧つつみ回りけり 椛子
【評】「朝霧つつみ」が表現としてやや曖昧ですが、常識的に考えて朝霧が大水車を包んでいるのでしょう。「大水車朝霧のなか回りけり」「朝霧の湧き立つなかを大水車」などもう少し推敲できそうです。
○今一度ジャンプすれども烏瓜 永河
【評】「すれども」というのは手が届かなかったということですね。「今一度垂直跳びや烏瓜」とする手もあるでしょうか。ちなみにわたしは俳句のなかで出来るだけ片仮名の外来語を避けるようにしています。
△~○稔田に風の尻餅まんまると 永河
【評】かつて英国の麦畑にミステリー・サークルが出現して話題になりましたが、あのような感じでしょうか。特に「まんまると」でわたしの理解を超えました。
次は11月18日(火)の掲載となります。前日17日(月)の18時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
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