先日、兵庫県内のとある認知症疾患医療センターになっている病院で、地域で活動する医療・福祉専門職の皆さんを対象に、災害時の認知症の人への支援について研修を行いました。
認知症といっても、それぞれの患者さんに現れる症状は様々で、結局はご本人の状態を考慮した支援が必要という話になるのですが、その「状態を考慮」するためには、周囲の支援者に防災や災害時を念頭に置いたアセスメントが必要です。
災害が発生し、何らかの対応や避難が必要なとき、すでにこのコラムをお読みの皆さんは備えをされていると思いますが、何を想定しながら準備をされているでしょうか。最近では地震が発生する数十秒前に地震発生を伝える情報がスマホに届いたり、スマホでもテレビでも避難を呼びかける情報は細やかに頻繁に届いたりします。皆さんはその情報を得て、どの様にご自身が取るべき行動を判断しているのでしょうか。
私たちは「災害発生のときは避難をする、そのために準備をしておく、家の中を安全になるよう工夫する」ということを考え、準備を進めていると思います。そして、もしも避難すべき状況になったら、おそらく迷いながらも「よし!逃げよう」と決意し、家を出て避難所へ向かうでしょう。この一連の行動をもう少し細かく具体的に考えてみましょう。
想定される「いざ、避難!」という直前の場面では、簡単に挙げても以下のような行動を行うことになるでしょう。
・避難をすべき危険が迫っている情報を受信
⇒スマホ、テレビ、ネット情報、知人からの連絡などにより情報入手
・情報をもとに自分が避難すべきかを検討する
⇒自分の家の状態、周囲の環境の状態、避難先までの距離や移動手段、持ち物、その他自分の置かれた環境や一緒に逃げる人やペットのことを考える
・避難するとなると、持ち物を用意する
⇒非常用持ち出し袋が準備されていれば早いが、そうでない場合必要物を集める。
⇒持ち出し袋に入れていない貴重品等を集める
・家のガスの元栓を閉め、電気のブレーカーを落とし、戸締りをして家をでる
・移動を安全に行う
⇒水があふれていたり、路面が壊れていたり、塀などが崩れている場合は、危険の少ない道を選び、足元を棒などで確認しながら進む
・避難所へ到着
今回の研修のテーマであった認知症がある方の場合、症状や状態にもよりますが、災害発生のリスクが高まっているという情報を入手することから、難しい場合があるかもしれません。例えば、スマホを持っていなかったり、持っていても送られてくる文字情報や画面の情報を捉えられなかったり、テレビを見ていても我が事として考えることが難しい場合があるでしょう。避難を決意するためには、考え行動につなげる情報処理能力が必要ですが、認知症になり記憶や見当識、客観的な状況の把握と判断について、難しさが生じる場合があります。
また、高齢者の場合は移動する際にも注意が必要です。早期の避難であれば、天候や路面の状態は普段とかわらないかもしれませんが、避難指示などが出ている状況では、浸水していたり道が崩れていたり、夜道が真っ暗な場合もあり、しっかり歩ける人でも注意をして歩かなければなりませんし、足腰が弱っている人はなおさらです。
認知症にかぎらず、なんらかの理由で避難行動や避難生活を想定すると「逃げるのは難しいかも」「移動先での生活はできないかも」と思うこともあるかもしれませんが、それを想定して、課題を拾いあげ対応を考えて行くことが大切です。そのためには、非常時にどのような状態になり、どの様なことが必要で、どうすべきなのかを具体的に詳細に考える必要があります。支援対象者となる方が、何ができて、何がむずかしいのかを考え、事前に準備ができることは、その準備が進むように計画を立てて少しずつ取り組んでいくことも大切です。
これまでに起きた様々な災害において、隣近所の人による救助が行われ、多くの人を救いだしてきました。一方で、迎えに行ったり探しに行った住民が被害にあってしまうこともありました。1分でも早く家を出る準備ができていると、支援しようとする周囲の人の安全を確保することにもつながります。人間はいざという時は他者のために力を尽くそうとすることがしばしばあります。自分で出来ることは、自分でしておくことが大切です。そして、医療・福祉の専門職として地域生活をサポートしている方は、どうか1つでもいいので家の中や生活の中での備えを、コツコツと増していける支援と、そのためのアセスメントをお願いしたいと思います。
もちろん、私たち自身の備えも大切です。続けていきましょう!
