トランプ政権下、学生を守るために奮闘する大学

高市新総裁が教育勅語を褒める発言をするなど、日本国内にも気になることはあるのですが、トランプ政権下のアメリカで起きていることについても、ときどき紹介したいと思います。日本の政策は米国の後追いをする傾向もあります。
とはいえ私自身は米国を専門に研究をしているわけではないので、全米大学協会(AAC&U)のニューズレターの記事を紹介しようと思います。
今回に紹介するのはこちらの「恐怖、予算カット、そして学生を第1に考える戦い:州立カリフォルニア大学Rochon学長、高等教育の困難な時代の舵取りをする」です。


州立カリフォルニア大学(以下、CSUF)というのは、カリフォルニアの中堅どころの大学と言えるかと思います(カリフォルニア州立大学は名門校として有名ですが、名前は似ていますが別の大学です)。複数の大学の集合体で、そのうちのFullerton校の学長をしているRonald Rochon学長へのインタビュー記事が掲載されていました(上記リンクに写真があります)。Rochon学長は、学長になって2年目の動物学者です。自身も労働者階級の家庭で育ちました。自己紹介のイラスト(女性)
CSUFには移民の家庭の子弟がたくさん通っています。米国ですので、非合法移民の子弟も多くいます。非合法かもしれませんが、長年米国で暮らしてきた人たちです。米国で生まれた学生もいれば、幼少時に親に連れられて来た人もいます。非合法移民という存在の是非は議論があるかもしれませんが、幼少期に親に連れられて国境を越えてきた彼女・彼らに責任はありません。彼女・彼らの子どもとしての権利、守られる権利や育つ権利、学校に行く権利などはきちんと保障される必要がありますし、以前の米国は(州による状況の違いはあるとしても)、子ども達の権利を踏みにじるようなことはしませんでした。
しかしトランプが政権を取って以降、状況が大きく変わりました。かつては、「大学も含めて学校などのデリケートな場所には、入国管理局の職員は踏み込まない」という原則がありました。しかしこの原則は、廃止されてしまいました。
それ以降、大学内には時々、「入管の職員がキャンパス内にいる。強制収容と国外追放が行われる」という噂が流れ、学生が授業に来られなくなったりしているとのことです。それでも現在のところ、入管職員がキャンパス内にいることは確認されておらず、大学は学生たちに冷静になるように呼び掛けています。握手をしているビジネスマンのイラスト「日本人と外国人」
Rochon学長たちは、大学の外の地域社会に向けて、また他の大学とも連携して、学生を守るために動いています。まずは学生の不安を鎮めること。万一連行されたら、大学も含めてどこにどのような連絡をすればよいか、取り調べにはどういうふうに応じるのが良いのかについての説明を書いたガイドを配布し、そして「大学は必ずあなたを守る」と伝えています。カウンセラーなどを増やし、学生同士のピアサポートにも力を入れています。創立記念などの大学の行事で学生と教職員が触れ合うことも大事にしています(上のリンク先に写真あり)。
また地域の人々に、この大学で学ぶ学生達が、今まで地域を支えてきていることなどを折に触れて伝えています。6月9日には、学生の強制連行に反対する市民によるデモもありました(上のリンク先に写真あり)。
「いつ連行されるかわからない」という恐怖におびえながらの大学生活とは、とても辛いものだと思います。でもそんな中でも、彼女・彼らの成長を見守ってくれる人たちがいることは救いだとも思います。他方で、大学という存在が世界で最も栄えていたはずの米国でこんなことが起きているというのは、とても悲しいことであるとともに衝撃的でもあります。
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西垣順子<大阪公立大学 高等教育研究開発センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「学生と考えたい『青年の発達保障』と大学評価(晃洋書房)」(編著)など。


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