前回は「戦争に向かう時代と学問」という記事を書きました。一部の人にとって都合の悪い学問の成果を無視する動きは現在も多くあります。その1つに近現代史研究の成果があると思います。「昭和100年」となる今年の夏に、岩波新書で「新版 南京事件」が発行されました。著者は歴史学者の笠原十九司さんです。ラジオやネット番組でも紹介されていますので聞いてみてください。
上の番組では南京事件の話が中心ですが、より広く日中戦争の様子を解説した動画もありました。
動画の中でも話されていますが、かつては学校で普通に教えられていたこれらの歴史が、様々な圧力を受けて教えられなくなっています。そのため、現在の20-30歳代の人たちと50-60歳くらいの人たちの間では、「共通認識」が形成しづらいという状況もあるように思います。
実際には、この30-40年ほどの間にも歴史研究は進展し、南京事件も含めて、日本の侵略戦争による中国大陸での残虐行為(殺人、強姦、略奪など)の証拠はしっかりとそろってきています。上の動画の中には、当時の写真も出てきますが、こういう資料が研究者の手に入るまでには時間がかかるものです。
例えば、国交正常化をする以前の中国に研究者が資料探索に行くことは困難でしたし、行けるようになったからといって、証拠資料がすぐに発見されるというものでもありません。アメリカの公文書館などにも多くの資料がありますが、研究者が閲覧できるようになるには一定の年月がかかります(関係者が生存しているなどの事情がある場合もあるため、即時公開とはならないのです)。細かい話ですが、大学に勤務する研究者の研究のための渡航手続きも、昔は大変でした(私が大阪市大に着任した時には、辞令がいちいち交付されていました!)。
これらの障壁がひとつひとつ取り除かれて、南京事件についても日中戦争についても、現在の歴史研究が明らかにしていることは30-40年前よりもずっと進歩しています。視点を変えて言うと、昭和48年生まれの私が中学校で南京事件等を学んだときには曖昧だった事柄も、今でははっきりしていたりします。けれども、過去に日本が行った侵略戦争とそれに伴う残虐行為を矮小化したいと思う人たちは、数十年前の、曖昧さもあった歴史研究の到達点の揚げ足取りをして、現在に至る歴史研究の蓄積を無視しています。
こういう事が積もり積もって、前回記事で紹介した保坂正康さんが言うような「主観的願望を客観的事実にすり替える」という行為が横行するようになるのだろうと思います。
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歴史研究の成果と南京事件
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