かわらじ先生の国際講座~米露アラスカ首脳会談を振り返って

画像なし米露首脳が8月15日、米アラスカ州アンカレッジの米軍基地で会談を行いました。両国首脳が3年半に及ぶウクライナ戦争の開始後、直接対面するのは初めてです。歴史的な会談、と言いたいところですが、開催自体が唐突で十分な準備ができていたとも思えず、また約3時間の会談による成果も、共同記者会見を見る限り、ほとんどないように感じるのですがいかがでしょう?よくわからないのは、なぜこの時期に突然首脳会談を行ったのかということです。これは米露首脳のどちらが望んだ会談だったのでしょう?そもそもプーチン大統領は、ウクライナ占領地域から児童を不法にロシアへ移動・連行したかどで、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ていたのではありませんか。それなのになぜ米国は彼を迎え入れたのでしょう?

まず逮捕状の問題に関していえば、米国はICCに加盟していないため、その拘束を受けません。したがってプーチン氏を逮捕しないからといって国際法上そして国内法上、違反はしていないわけです。とはいえ、トランプ大統領も国際世論を多少は考慮したのでしょうか、ロシアへ拉致された児童を返すよう、メラニア夫人からの書簡を渡すという形で求めたとのことです。

トランプ氏側とプーチン氏側のどちらがこの首脳会談を望んだのかという件ですが、双方がこうして会ったのですから、どちらもこの会談に意味があると考えたことは確かです。プーチン大統領としては、最近トランプ大統領がロシアに対し、戦争を継続するなら追加制裁を行うとの警告を発していましたので、それを回避する策を講じる必要がありました。しかし、今回の首脳会談を見る限り、明らかに米国側、というよりトランプ大統領自身が前のめりだったと思います。

画像なしなぜそう思うのですか?

プーチン大統領への厚遇ぶりです。出迎えの際もトランプ大統領はプーチン氏としっかり握手を交わして親愛の情を示し、移動に際しては、自らの専用車「ビースト」の後部座席にプーチン氏と一緒に座るという演出までメディアに示しました。驚いたのは会談後の共同記者会見です。本来ならホスト国である米国の大統領が口火を切るはずなのに(特にマスコミ対応が好きなトランプ氏はたっぷり自分の時間をとって語ることを欲するはずなのに)、今回はプーチン大統領に先に話すよう促し、10分ほどの短い会見でしたが(記者からの質問も受け付けませんでした)、プーチン氏にたっぷり話す時間を与え、トランプ氏自身は何だか大変控え目な印象を受けました。まるで今回の首脳会談の一番の目的は、プーチン大統領を国際舞台へ復帰させることだと言わんばかりで、トランプ大統領がそのために一肌脱いだといった感がありました。

画像なしなぜそこまでトランプ大統領はプーチン氏に「献身的」なのでしょう?

そこが本当に謎です。米国の国益にとっても、国際秩序の回復という観点からも、ロシアを国際社会へ再び迎え入れることはウクライナ戦争の帰趨以上に重要なことだと、トランプ大統領は考えているのかもしれません。しかしそれは買いかぶりで、実際には利己心や功名心から「暴走」しているのではないかと思われるふしもあります。最近の報道によれば、トランプ氏は本気でノーベル平和賞の受賞を欲しており、7月にノルウェーのストルテンベルグ財務相と電話した際、ノーベル平和賞の受賞を望んでいると自ら伝えたというのです。

今年のノーベル平和賞の候補となるためには、もうあまり持ち時間はありません。トランプ大統領は「平和の仲介者」として手っ取り早く外交的な成果を上げたいと急いでいるのかもしれません。
共同記者会見の内容から判断して、ウクライナ問題に関する前進はほとんど何もなかったと言っていいでしょう。ところがトランプ大統領は首脳会談が終わったあと、自身のSNSに従来の考えを一変させるような投稿をし始めています。今まで求めてきた「停戦合意」ではなく、いきなり「和平合意」を目指すべきだというのです。

画像なし停戦があって次が和平のはずですが、いきなり和平合意など可能なのですか?

トランプ大統領は功を焦っているのでしょうね。たしかにロシアの言い分を受け入れるなら、ロシアも戦闘行為を止めて、すぐにでも和平に応じるでしょう。プーチン大統領は共同記者会見の場で、戦闘を終わらせる条件として「危機の根本原因を除去しなければならない」と強調しました。この「根本原因」をつきつめていえば、第一にウクライナのNATO加盟問題、第二にウクライナ現政権の「ネオナチ」問題ということになるでしょう。つまりウクライナを中立国とし、ウクライナ政府を事実上、親ロシア的なものに改造せよということです。トランプ大統領にこれを受け入れる心づもりがあるとすれば、今度はウクライナ及び欧州諸国と米国の対立が先鋭化するでしょう。
トランプ大統領はロシアをとるか、それともウクライナ及び欧州をとるか、その選択を迫られています。8月18日には米ワシントンで、トランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領による首脳会談が予定されています。この首脳会談にはEU委員長と欧州首脳が同席すると伝えられています。その会談の結果に注目しています。
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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。 同大学院修士課程修了。 専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。 俳人協会会員でもある。 俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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