「カナリア俳壇」122

猛暑日続きの毎日ですが、時にふっと涼しい風が吹くなど、どことなく秋の気配も感じられるこの頃です。2日後(7日)はもう立秋ですね。

△方言の飛び交う電車風涼し     作好
【評】まず「飛び交う」は「飛び交ふ」と表記しましょう。また、「風涼し」は一般に戸外で用いる季語です。電車のなかでの景ですから、窓からみた景色を季語にして、「方言の飛び交ふ電車青山河」など工夫してみてください。

△熱中症警戒アラート今年早や     作好
【評】事実描写どまりで、詩的なときめきが感じられません。また、〈6・8・5〉という大幅な字余り句となっています。とりあえず字数を整え「今年はや熱中症の注意報」としておきます。なお「早」だけで「はや」と読みますので「早や」は表記間違いです。

△フルフルと水まんじうは怯えたる     白き花
【評】「フルフル」は「ふるふる」と平仮名で表記してください。また「まんじゅう」の歴史的仮名遣いは「まんじう」ではなく「まんぢゆう」です。「怯え」は「おびえ」と読みますが、「震(ふる)へ」のまちがいでは?さらに申しますと、俳句ではできるかぎり助詞「は」を避けましょう。「ふるふると水まんぢゆうの震へをり」としておきます。

〇浴衣着てライフジャケット舟の上     白き花
【評】本来なら、浴衣の上にライフジャケットを「着て」となるのではないでしょうか。とりあえず「浴衣着へライフジャケット舟の上」としておきます。

〇~◎海を向くシーサー五体晩夏光     瞳
【評】雄大な沖縄の景が見えてきます。「晩夏光シーサー五体海を向く」とどちらがいいでしょう。

〇宇座海の潮風ほほに黒やんま     瞳
【評】ネットで調べると「宇座海岸」という呼称はありますが、「宇座海」という呼び方が見当たりません。その点はだいじょうぶでしょうか。あと、上五で「海」と言っていますので「潮風」の「潮」は不要ですね。「海」か「潮」のどちらか一方で結構です。とりあえず「宇座海の風に吹かれて黒やんま」としてみました。

〇夏帽を深くかぶりて子ら来たる     美春
【評】とりあえず写生はできていますが、もうひとつ具体性がほしいところです。どういう子供たちがどこへ来たのでしょう。たとえば「孫来たる」とすれば、だいぶ状況がはっきりします。あるいは「夏帽子深くかぶりて子が塾へ」など、もう少し場面設定を明らかにしてください。

△もくもくと片陰急ぐ団子虫     美春
【評】冒頭に平仮名で「もくもくと」と書かれていると、雲か煙が湧き出てきたのかと思ってしまいます。漢字をあてるなら、たぶん「黙々と」ですね。「黙々と片陰をゆく団子虫」くらいでどうでしょう(「黙々と急ぐ」という表現には違和感があります)。

〇~◎老人のけふは夜遊びアロハ着て     徒歩
【評】俳諧味のある句です。「けふ」と「夜」に若干の重複感があるのと、「けふは」の「は」がやや強すぎるのが気になります。「老人のたまの夜遊びアロハ着て」くらいでいかがでしょう。

〇夏逝くや大本命の落馬して     徒歩
【評】本命馬という言い方もあるように、本命は騎手でなく馬に対して使うのが一般的かと思いますが、とすると本命が落馬するという表現はどうでしょう。「夏逝くや大本命の落伍して」「夏終はる大本命がしんがりに」などもう一工夫できそうです。

△~〇びしょ濡れやパパに向かつて水鉄砲     ゆき
【評】まず、「びしよ濡れ」と書きましょう(平仮名は例外なくすべて大きく表記)。上五は「パパ」が主語、中七下五は子が主語となっていて、厳密に言えば少々ちぐはぐな句です。あと、下五が字余りなのも気になります。「びしよ濡れや水鉄砲にパパ撃たれ」としてみました。

△~〇ナベサダの暑さ打つ飛ぶ生演奏     ゆき
【評】「暑さ打つ飛ぶ」と説明せず、暑さを打ち返すようなパンチ力のある写生句を作りたいところです。下五の字余り(「生演奏」は6音)も気になります。たとえば「ナベサダの生演奏や雲の峰」とするのも一法です。

〇払暁の蜘蛛の囲光る露天風呂     万亀子
【評】欲をいえば、露天風呂のどこに蜘蛛の巣がかかっていたのか示せるといいのですが、とりあえずきちんとした写生句です。

△~〇キリストの供花に金色猫じやらし     万亀子
【評】「キリストの供花」がイメージできないのですが、教会の祭壇に手向けたということでしょうか。「金色猫じやらし」もやや舌足らずな感じです。シュールな句になってしまいますが、「キリストの手に金色の猫じやらし」と考えてみました。

△~〇稲の秀を手に受くる農鬢白し     妙好
【評】「農」とは「農夫」の意味でしょうか。この省略は無理があるように感じます。また、この「農」はだれから稲の秀を手渡されたのでしょう。「稲の穂を手にとる兄の鬢白し」などもう少し推敲してみてください。

◎桜桃忌からくれなゐの傘を差す     妙好
【評】「からくれなゐの傘」にある種の情念が感じられ、太宰治の命日である桜桃忌にふさわしく思いました。

△~〇大西日手旗確かな誘導員     恵子
【評】第一に、上五と下五が両方とも名詞という形は句を窮屈にしてしまい、美しくありません。第二に、「確かな」という表現は観念的です。「確かな」を具体描写してください。第三に、下五が字余り(「誘導員」は6音)です。「手旗ふる誘導員や大西日」としてみました。

〇もう飛べぬ玉虫なほも瑠璃放つ     恵子
【評】「玻璃」とはガラスのこと。それを放つことはできません。要するにガラスのようにきらめく光を放ったのですね。「もう飛べぬ」に加え「なほも」まで言ってしまうと感情過多で、読み手の気持ちは引いてしまいます。思いは隠し、たんたんと客観的に描写しましょう。「地を這へる玉虫の翅燦爛と」「閃光を放ち玉虫落ちきたり」など推敲してみてください。

◎洗ひ髪ゆるく束ねて宵涼み     智代
【評】「ゆるく」に気持ちの解放感が伝わってきます。ふと竹久夢二の描く女性の姿が思い浮かびました。

〇~◎帯に差す扇子の香り仄かにも     智代
【評】抒情性豊かな一句。「仄かにも」がやや生硬ですので、「ほんのりと」でどうでしょう。

〇場所入りや浴衣の力士見送りぬ     夏菜
【評】名古屋場所ですね。伸びやかですなおな作りの句です。「場所入りの浴衣の力士見送れり」くらいでどうでしょう。

◎青胡瓜夫のオフィスの屋根までも    夏菜
【評】屋根の上の青空まで連想されます。快活で気持ちの伸びやかになる句です。

◎骨格の崩れゆきさう草いきれ             永河
【評】感覚の新しい句です。シュールではあるものの、たしかにこんな感じがしそうですね。

〇~◎飛驒路への辻に地蔵や蟬時雨              永河
【評】骨格のたしかな写生句です。「辻に」か「辻の」かで迷うところ。このへんは好みの問題になりますが、わたしは「の」にしたいと思いました。

次回は8月26日(火)の掲載となります。前日25日の午後6時までにご投句いただければ幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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