暑中お見舞い申し上げます。外に出ると危険を感じる暑さですね。わたしの勤務先がある京都では、こんな暑さの中でも祇園祭の機運が日増しに高まっています。もともとは疫病退散の行事だったとか。皆さんの地域にもこうした行事があるのでしょうか。
〇~◎夏野菜若い売り子も腕まくり 作好
【評】夏の活気が伝わる句。「腕まくり」という具体写生もいいですね。「若き」とするとさらに句に張りが出るように思います。
△~〇草取や土もちあげし生姜の芽 作好
【評】焦点が「草取」(夏の季語)と「生姜の芽」に二分してしまうように感じます。「生姜」は秋の季語ですので、「草取」をカットし、「生姜」の句として作ってはいかがでしょう。たとえば「草むらに土もちあげし生姜の芽」など。
△~〇阿字池の白き睡蓮モネの如 瞳
【評】阿字池は宇治・平等院まえの池のことですね。「モネの如」ではなく「モネの絵の如」でしょう。あるいは「阿字池の睡蓮モネの如き白」なら通りそうです。
△~〇浴衣着て姉妹手を取り屋形船 瞳
【評】初級段階ではまず動詞を一つにする努力をしてください。でないと、いつまで経っても「ああしてこうして」という説明調を免れることができません。わたしは初心のうちは一切動詞を使わないという方針を立て作句の訓練に励みました。「屋形船浴衣の姉妹手を取りて」など。
△~〇どの鉢も七色衣装の金魚市 美春
【評】「衣装」とは文字通り衣類に対して用いる語ですので、鉢に対して使うのは無理があるように感じます。あと、中八になっていませんか。とりあえず「ガラス鉢どれも七色金魚市」としておきます。
〇一筋に雫流るる破れ蓮 美春
【評】この雫は雨滴でしょうか。渋みのある写生句ですね。
〇三伏や時間の掛かる顔認証 徒歩
【評】俳諧味のある句です。下五の字余りを解消するとさらにすっきりとした句になると思います。たとえば「三伏や顔認証を最初から」「三伏や顔認証を繰り返し」等々。
〇ひとりだけ降りる終点雲の峰 徒歩
【評】詩情のある句だと思います。欲をいえば、この終点はバスなのか電車なのかを明確にしたいところです。「雲の峰バス終点に一人立ち」など。
△~〇丁寧に水撒き終えて夕立す 白き花
【評】「終えて」は「終へて」と表記しましょう。また、「夕立す」よりも「夕立来る」としたほうが自然な表現になると思います。「丁寧に水撒けば来る夕立かな」と考えてみました。この場合は「夕立」を「ゆだち」と読みます。
◎旅心湧くやビールの泡軽し 白き花
【評】「ビールの泡軽し」としたところがお見事。文句ない秀句だと思います。
◎風死すやぽつかり空きし埴輪の目 恵子
【評】この季語が虚ろな心理状態を投影しているようで、まるで心もぽっかり穴が空いているようですね。
〇~◎雨激し葉裏へ急ぐ蝸牛 恵子
【評】かたつむりの必死さが伝わってきます。人から見れば緩慢な動きかもしれませんが、かたつむりにとってみれば精一杯急いでいるのでしょう。
△~〇耳もとに楽ふくらめり半夏雨 妙好
【評】「楽」とは音楽のことだと思うのですが、「音楽がふくらむ」という言い方がいいのかどうか。「耳もとにちさき楽隊半夏雨」でも通じそうにありませんね。ご一考ください。
〇魚跳ぬる河岸のかしこに扇風機 妙好
【評】目の付け所がユニーク。「魚跳ぬる河岸」を「魚河岸」として、もう少し具体描写ができるとさらによい句になりそうです。特に「かしこに」を何とかしたいところです。適当な作例ですが「魚河岸のまぐろの横に扇風機」など。
〇~◎薔薇園のテラスで紅茶老紳士 万亀子
【評】とてもお洒落な句です。紅茶の効果でしょうか、この老紳士が英国のジェントルマンを思わせます。
〇静かさや七百畳の堂涼し 万亀子
【評】スケールの大きな句ですね。この「七百畳」を「静かさ」と「涼し」と二重に修飾しているのが惜しまれます。「涼し」のほうを残し、「涼しさや七百畳の堂に坐し」とする手もありそうです。
△~〇塗下駄の素足に薄ら土埃 智代
【評】「塗下駄の素足」が日本語表現としてどうでしょう。この「土埃」は塗下駄でなく、素足に付いているのでしょうか。とすれば、読者の目は素足のほうに行ってしまうので、塗下駄が生きてきません。句意は変わってしまいますが、たとえば「塗下駄の鼻緒に土や祭果て」など、塗下駄に焦点を当ててみてはいかがでしょう。
◎黄金虫茄子の葉裏に翅を閉づ 智代
【評】まさに即物具象ですね。しっかりと情景の見える写生句です。
〇ここそこに売り地増えゆく蝉の声 永河
【評】少子高齢化のあらわれでしょうか。空き家が売地となっていくのでしょうね。「増えゆく」ですと時間経過になってしまい、写生句としての力が弱まります。たとえば「ここそこに売地の札や蝉の声」など、もう一工夫してほしいと思います。
△~〇十薬の曇天に眼を光らせる 永河
【評】「眼を光らせ」ているのは十薬でしょうか。とすると生々しくて、動物みたいになってしまい、十薬には合わないような気がします。とりあえず「十薬の見開くまなこ曇天に」と考えてみました。
△~〇夕空や心慰むめだかの子 夏子
【評】作者は空を見ているのでしょうか、それとも目高の子を見ているのでしょうか。その辺をはっきりさせるとさらによい句になりそうです。「夕暮の心休めや目高の子」「目高の子見つめてゐたる夕心」などもう少し工夫してください。
〇~◎一皿のケバブ分け合ふ日の盛り 夏子
【評】ケバブと盛夏はよく合いそうですね。すなおな作りの句でけっこうです。
△~〇かめむしをつぶして句作夏扇 ゆき
【評】まず、俳句のなかで「句作」という言葉は不要です。また、「扇」だけで夏の季語です。「夏扇」という季語はありません(歳時記でご確認を)。「かめむしを潰す扇をぱたと伏せ」など工夫してみてください。
△~〇小目高や眼を真ん丸に底覗く ゆき
【評】眼を真ん丸にして底を覗いているのはだれでしょう。目高であれば「や」で切ってはいけません。「子目高が眼を真ん丸に底覗く」としましょう(「小目高」でなく「子目高」だと思います)。ちなみに小さな目高つまり子供の目高のことを「針子」とも言います。
次回は8月5日(火)の掲載となります。前日4日の午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。