「カナリア俳壇」120

猛暑日続きだった先週とは打って変わってまた雨空が広がっています。蒸し暑さには辟易しますが、雨もまたよしと思うこの頃です。

〇クロアゲハ林の中へランデブー     作好
【評】メルヘンを思わせる句です。和語はひらがなか漢字で表記しましょう。「黒揚羽林の中へランデブー」。

△~〇達人かラクラク斜面草刈す     作好
【評】二つ問題があります。一つ目ですが、俳句は断定の詩です。「~か」という疑問形にせず、達人だと言い切りましょう。二つ目ですが、和語はひらがなか漢字を使ってください。「らくらく」または「楽々」です。「草刈の達人斜面らくらくと」。

〇~◎でで虫や葉の滴りを角で受け     美春
【評】繊細な観察の句で結構です。途中で切らず、一物仕立ての句にする方法もありますね。「かたつむり葉の滴りを角で受く」。

〇涼しさや沢音聞こゆる土産店     美春
【評】「沢音」は「さわね」でなく「さわおと」と読むのが一般的だと思いますので(人名だと「さわね」になりますが)、中八になってしまいます。「涼しさや沢音とどく土産店」くらいでどうでしょう。

〇和傘手に野点の会や蓮の寺     瞳
【評】雨の中で開かれたのでしょうか。大変でしたね。「蓮」があまり効いていないきらいはありますが、とりあえずきちんとできています。

〇十六体の羅漢像座す夏座敷     瞳
【評】座敷のなかに十六体の羅漢像が坐っているのですか。壮観です。上五の字余りが気になります。どんな場合でも絶対に字余りをしないという縛りを自らに設けると上達が早いように思います。ここをいい加減にするとなかなか上へは進めません。「夏座敷十六体の羅漢坐す」でどうでしょう。

〇~◎知盛の海しづかなり夏の月     徒歩
【評】平知盛は平家物語、謡曲、その他の文学で取り上げられ、浮世絵にも描かれるなど昔から国民的な人気のある武将ですね。「見るべき程の事をば見つ」も彼の言葉だとネットで知りました。壇ノ浦で没したのは3月下旬のようですが、知盛供養の句としてけっこうと思います。

〇一面に「攻」の活字や氷水     徒歩
【評】「一面」というのは新聞の第一面ということですね。イスラエルのイラン攻撃の記事だったのでしょうか。上五がややわかりづらいので、たとえば「攻撃の文字が紙面に氷水」とする手もありそうです。

△~〇今植ゑし早苗田にほの夕明かり     恵子
【評】「ほの夕明かり」が表現として窮屈です。「植ゑ終へし田にほんのりと夕明かり」くらいでどうでしょう。

〇木漏れ日も肌さすやうな夏至の午後     恵子
【評】実感のこもった句です。たしかに先日の日差しはこの句のようでした。「肌をさすほどの木洩れ日夏至のけふ」と少々文学的にアレンジしてみました。

△~〇枇杷の実や朝の小鳥の賑やかし     ゆき
【評】「にぎやかし」は動詞「にぎやかす」の連用形ですので、この句の使い方には少し問題を感じます。とりあえず「賑やかな朝の小鳥や枇杷熟るる」としてみました。

〇入梅雨や赤絵の線の筆走る     ゆき
【評】「にゅうばい」は「入梅」でけっこうです(「雨」は不要)。あるいは「梅雨入(つゆいり)」。赤絵の絵付師の様子が思い浮かびます。原句でも結構だと思いますが、「入梅や赤絵の筆のつと走る」と考えてみました。

◎父の日や横座にでんと煙草盆     妙好
【評】昭和前期くらいまでの父親像ですね。わたしの祖父の代までは煙草盆がありました。しっかりとした写生句です。

〇帆のやうに夏シャツ広げバイク行く     妙好
【評】「帆のやうに」という比喩が難しいところです。「バイク行く夏の柄シャツはためかせ」くらいでもいいかなと思いました。

〇湯上りの早く飲みたき梅ジュース     のりこ
【評】はやる気持ちがよく出ています。このままですと切れがありませんので、中七で切れを入れましょう。「湯上りに早く飲みたし梅ジュース」。あるいは上五で切って「湯上りや早く飲みたき梅ジュース」でもけっこうでしょう。

〇蝸牛柔らかき葉のレースめく     のりこ
【評】「レースめく」というのは葉脈のことですね。「レース」といえば「柔らかき」は想像がつきますので、「蝸牛レースのやうな葉の上に」くらいでいかがでしょう。

〇~◎切り岸の石仏濡らす石清水     万亀子
【評】情景のよく見える写生句です。「切り岸」と「石清水」の「石」が重複しますので、「切岸の石仏濡らす清水かな」でどうでしょう。

◎若葉雨崩れしままの奥の院     万亀子
【評】山深い奥の院を想像しました。しっかりとした写生句です。上五と下五がともに名詞の形はあまり見栄えがよくありませんので、上五をたとえば「青梅雨や」とするのも一法です。

△~〇釣り堀の木陰に供養碑のありし     白き花
【評】「ありし」ですと、昔はあったが今はもうない、という意味になってしまいます。この句の形を生かすならば「ありぬ」としましょう。この供養碑は何を供養しているのでしょう。そこを具体化するならば、一例として「釣り堀の木陰に神馬供養の碑」など。

△~〇すずらんを縫ひ取りしたるブラウスや     白き花
【評】下五に「や」をもってくる形は極めてまれで、よほどの上級者でないかぎり避けたほうが無難です。「ブラウスに鈴蘭の花縫ひ取りぬ」としてみました。

〇~◎灯明りに浮かぶ菩薩や額の花     智代
【評】しっかりとした写生句です。上五を「灯明(とうみょう)に」とするのも一法でしょうか。

〇むず痒き背ナに爪あと夏兆す     智代
【評】「むず痒き」ですから自分の背中ですね。とすれば、ふつうは爪あとを見ることができないのでは?「むず痒き背に腕まはす立夏かな」などもう一工夫できそうに思いました。

◎畦道のベビーカーへと蛙飛ぶ     チヅ
【評】心楽しくなる明るい句です。「蛙飛ぶ」ではなく「蛙跳ぶ」としましょう。

◎日盛りや抱きかかへたるランドセル     チヅ
【評】この感じよくわかります。小学生も暑くてやりきれないのですね。

〇もう要らぬ戦火の威嚇濃紫陽花     永河
【評】「戦火の威嚇」という表現がどうでしょう。たとえば「もう要らぬ核の威嚇や濃紫陽花」くらいだとすっと通るように思います。

〇~◎空に星海に珊瑚や合歓の花     永河
【評】沖縄の離島の夜景でしょうか。命のきらめきを感じさせる句です。

〇~◎天竜の秘境の新茶まづ買へり     ゆい  
【評】霊妙な味わいの新茶を想像しました。下五「振舞はる」としてもいいかもしれませんね。

〇田植季の土産屋に売る泥鰌の子     ゆい 
【評】上五がどうでしょう。これでは田植え期のいろいろな地方の土産屋が該当しそうです。「天竜の」など上五に固有名詞をもってくると風土色が出るように思います。

△~〇弾む児の声が母の日連れ来たり     久美
【評】「母の日連れ来たり」という表現に無理を感じました。もう少し素直に写生してみてください。たとえば「母の日や児の弾む声おもてまで」など。

〇若葉雨峰の隠るる猿投山     久美
【評】「上五と下五の両方を同時に名詞にしない」ということを一つのコツとしておぼえてください。下五が名詞ならば、上五は「や」で切ると、俳句らしい美しい形になります。たとえば「梅雨冷や峰の隠るる猿投山」など。

次回は7月15日(火)の掲載となります。前日14日(月)の午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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