「カナリア俳壇」119

わたしが暮らしている関西は、午後からどんよりとした雲が広がっています。梅雨入りも間近ですね。あちこちで紫陽花が美しく咲き始めています。

〇数独のマスはうまりて春動く     作好
【評】ユニークな句です。「春動く」は「春めく」とほぼ同義ながら、なかなか使い方の難しい季語ですが、果敢に挑戦したところも感心です。「マスは」の「は」が強すぎるように感じますので、「数独のマスみな埋まり春動く」としてみました。

〇芽吹き待つ梢の先は北極星     作好
【評】夜の景なのですね。「は」が強すぎる感じですので、「に」くらいのほうがいいかもしれません。俳句ではよほどのことがないかぎり助詞「は」を使いません。「北極星梢こぞりて芽吹き待つ」とすれば、読み手はすんなり夜の景に入っていくことができます。

〇麦秋や村に無料のバス走る     瞳
【評】童話の世界のようなのどかな村が見えてきます。「村に」の「に」が気になりました。「麦秋の村を無料のバス走る」でいいかもしれません。

〇~◎樹木医のごつごつの手新樹光     瞳
【評】「樹木医」という言葉がいいですね。中七が字足らずですので「ごつごつの手や」でいかがでしょう。あるいは「節太き指」などとする手もありそうです。

〇~◎巣を立ちて軒で呼びあふ燕かな     美春
【評】燕たちが互いに励まし合うように巣立ちしている場面でしょうか。「呼びあふ」に思いがこもっていて、心あたたかくなる句です。

〇身を反りて小枝を渡る毛虫かな     美春
【評】着実な写生句です。ただ、身を反らせるときは歩みが止まるのではないでしょうか。「身を反りて梢見上ぐる毛虫かな」のほうが自然な気もしますが、いかがでしょう。

◎灯をともす和紙のアートや美濃の夏     万亀子
【評】アートというのですから、雪洞や提灯のような伝統的な物でなく、現代的な意匠の作品なのでしょうね。ロマンチックな句です。美濃も効いています。

◎奥深き美濃の蔵元額の花     万亀子
【評】しっかりとした取合せの句です。額の花という和風の季語も美濃の雰囲気とよく合っているように思います。

〇山襞の雲動かざる田植かな     徒歩
【評】風格を感じさせる句ですが、「山襞の雲」が今一つイメージできませんでした。「山際の」や「山腹の」などのほうがわかりやすいように思いますがどうでしょう。あるいは「山襞に雲とどまれる田植かな」という手もあるでしょうか。

◎南吹くけふは軽めの腕時計     徒歩
【評】都会的でダンディーな一句。夏向きのお洒落な腕時計をして夏の浜辺を歩いている姿を想像しました。南佳孝のスタンダード・ナンバーが聞こえてきそうです。

◎万緑や炭酸水の泡あふれ     妙好
【評】湧き出づる緑とあふれ出る泡のハーモニーですね。ああ、青春だなあと熱い気持ちがこみあげてきます。

〇岐阜城の裾ふつくらと椎の花     妙好
【評】「ふつくらと」が「裾」にかかるのか、「椎の花」にかかるのか、その両方なのか、読者を悩ませる点が難点でしょうか。とりあえず「岐阜城の裾に匂へり椎の花」としておきますが、別案も考えてみてください。

〇宇宙へと行きし朝顔庭に蒔く     恵子
【評】自解によれば「宇宙から帰還し花を咲かせたという朝顔の種を貰」ったとのこと。どんな花を咲かせるのでしょう。正確にいえば宇宙で育った朝顔の種をもらって蒔いたのでしょうが、とりあえずはこのままでOKとしたいと思います。何か前書きを付けると読者には理解しやすいかもしれません。

〇鎮もれる茅葺きの宮新樹光     恵子
【評】神聖な宮ですので、「鎮もれる」は当然という気もします。何か別の表現が見つかるとさらによくなりそうですが、形としては整った句です。

△~〇一瞬の電車映すや水鏡     白き花
【評】この句には季語がありませんね。「通りゆく電車映せる植田かな」など、もう一工夫してみてください。

△~〇十薬の右に出る花たれか知る     白き花
【評】十薬の花以上に美しい花を知る者がいたら教えてほしいという意味だと解釈しました。十薬の花を賛美した句ですね。表現が観念的ですので、たとえば「十薬の花一輪をわが部屋に」など、具体描写を心がけてください。

△~〇新仕事成すにわくわくえごの花     ゆき
【評】気持ちの高ぶりが伝わってくる素直な作りの句ですが、どんな新仕事なのか読者には謎ですし、「わくわく」という言葉も俳句になじみません。一例ですが「新企画立てる会議やえごの花」など、俳句ではもっと具体的に描写することが大事です。

△~〇紅の薔薇他に無き色と言い切る     ゆき
【評】下五が字足らずでは?「紅薔薇の他に無き色と思ひけり」など、さらに推敲してください。

△~〇目の慣れて高き梢に朴の花     智代
【評】俳句は発見の詩ともいわれ、だんだん慣れてきた目で物を発見するのが基本ですから、上五の「目の慣れて」は不要です。また、朴の木は高木ですので、「高き梢」と言わなくても大丈夫でしょう。たとえば「葉陰よりぬつと現れ朴の花」など、朴の花の咲き方をもう少し具体的に描けるといいですね。

◎熟れ枇杷のうぶ毛光れり朝の卓     智代
【評】この枇杷は印象鮮明で、何より美味しそうなのがいいですね。明るい食卓も見えてきました。

〇さはさはと海馬うごめく若葉風    永河
【評】この海馬は脳内の海馬でしょうか。実験句ですね。「うごめく」であれば、「さはさはと」ではなく「もぞもぞと」などのほうがぴったりしそうです。「さはさはと」を使うのであれば、たとえば「さはさはとそよぐ海馬や若葉風」くらいでどうでしょう。

〇ひゅーるるり早苗励ます鳶のこゑ     永河
【評】表記としては「ひゆーるるり」と「ゆ」を大きくしてください。一番言いたいのが「励ます」であるのはわかるのですが、俳句は主観を隠し、客観に徹する文芸ですので、「ひゆーるるり早苗のうへを鳶のこゑ」くらいにとどめ、あとは読者の想像に委ねるのがよいと思います。

次回は6月24日(火)の掲載となります。前日23日の午後6時までにご投句いただければ幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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