あっという間に桜も散って、晩春の候となりました。この二日ほどは夏日を記録するほどの暑さとなっていますが、ゆく春を惜しみつつ、もう少しこの時期しか詠めない句を作りたいものです。
△~〇梅の香の漂う家に人は無し 作好
【評】この句の形ですと、だれもいないよその人の家に自分が勝手に入り込んだみたいですね。「梅が香や無人となりし一軒家」くらいでどうでしょう。
△~〇春の野は里も街にも黄色満ち 作好
【評】「春の野は」の「は」では以下が続きません。「春の野も里も街路も黄に満ちて」としてみました。
◎青天にドローン飛ぶや春田打 瞳
【評】まさに現代の風景ですね。青空と春田のコントラストが鮮やかで、のびのびとした気持ちになりました。
△~〇春耕の農婦足あと鳥辿る 瞳
【評】言葉の詰め込み過ぎで、調べが悪くなってしまいました。何の鳥かもわかるといいですね。とりあえず「春耕の足跡たどる鴉かな」としておきます。
△~〇湯タオルを巻きて飲み干す浅蜊汁 美春
【評】状況がつかめませんが、湯タオルは腰に巻いているのでしょうか。風呂上りに浅利汁を飲み干したという理解でよろしいでしょうか。浅利の殻は飲み干せませんが大丈夫だったのでしょうか。わたしの勘違いであれば申し訳ありません。とりあえず「朝風呂のあとに飲み干す浅利汁」としておきました。
△~〇夕暮れて穴子釣りする燈の下 美春
【評】穴子釣りの経験がないため、うまく鑑賞できませんが、この「燈の下」の「燈」とは街灯でしょうか。それとも持参の照明器具か何かでしょうか。「夕暮れてひとり穴子を釣りゐたり」くらいでどうでしょう。
△~〇病む足を労わり歩く桜道 久美
【評】足元に気を付けながら歩いたのでしょうね。とぼとぼ歩く感じを出して「病む足を労はり桜ちる道を」としてみました。下五は「歩く」を省略した形です。
△~〇日日を夫と共なり花吹雪 久美
【評】「日日を」だと毎日のことになりますが、「花吹雪」は一瞬のこと。時間感覚に矛盾がありますので、そのへんの整合性に気を付け、たとえば「毎日を夫といつしよに庭桜」などご再考ください。
◎淡海へと各駅停車山笑ふ 徒歩
【評】上五から推測するに、(滋賀県に入る前の)名古屋から米原前あたりの景でしょうか。あのあたりは山が美しく、伊吹山が見えると心躍りますね。一読、のどかな気持ちになりました。
〇清明や天守に近く鳶の笛 徒歩
【評】鳶の声を天守近くに聞いたということは、作者自身が天守にいないと成り立ちませんね。そのへんを明確にして「清明や天守に立てば鳶の笛」とするのも一法でしょうか。
〇静けさの戻りし川辺花は葉に 恵子
【評】「静けさの戻りし」とは、お花見客がいなくなったということでしょうか。とすると、やや理屈っぽい句になります。「戻りし」を消せるといいですね。あくまで一例ですが「川沿ひの道の静けさ花は葉に」など。
〇ゆったりと大小の鯉水草生ふ 恵子
【評】しっかりとした写生句です。「ゆつたりと」と表記しましょう。
〇水たまり空と花びら落ちてをる 白き花
【評】現代詩風のシュールな句ですね。「水たまり」を先に出してしまうと意外性が半減するので、「花びらと空落ちてゐる水たまり」と語順を入れ替えるのも手です。
〇風に舞ひ花びら集ふ川の淵 白き花
【評】すなおな写生句で結構です。ついでながら、「花びら」は何の花かわからないので季語ではないという説もありますが、『新版 角川俳句大歳時記 春』の「花」の項に「花片(はなびら)」が載っておりますので、大丈夫です。
〇~◎しやがむ子と同じ笑顔のチューリップ 妙好
【評】チューリップを擬人化し、子供と一緒に笑っていると捉えたのですね。幸福感が伝わる句です。
〇~◎片目剥く不動明王花ふぶき 妙好
【評】達磨のように片目を剥いている不動明王もあるのですね。漢字が続き過ぎないように「ふぶき」を平仮名にするなど、神経の行き届いた句です。
〇~◎伊勢に入る一之鳥居や飛花落花 万亀子
【評】くっきりとして力強い一句です。「に入る」が少々気になりましたので、「伊勢国の一之鳥居や飛花落花」でどうでしょう。
〇~◎風待ちて立ち泳ぎする鯉のぼり 万亀子
【評】おもしろいところを捉えた句です。語順を入れ替え、「立泳ぎして風待つや鯉のぼり」とする方法もありそうです。
〇カーテンに影遊ばせて春の蝶 智代
【評】いかにも春先の蝶らしいやさしい風情の句です。「蝶」は春の季語ですので、「春の」は不要です。さしあたり「カーテンに影遊ばせて蝶二匹」としておきます。なお、「方丈の大庇より春の蝶 高野素十」という句もありますが、素十という大俳人だから許される例外中の例外です。
〇花冷や厚みふつくら五平餅 智代
【評】「厚み」と「ふつくら」が重複しています。「花冷やふつくら焼ける五平餅」など、もう一工夫してください。
〇菜の花の波動水面に共鳴す 永河
【評】実験精神は高く評価したいと思いますが、「波動」や「共鳴」という漢語が果たして「菜の花」という季語の本意本情に即しているのかどうか、疑問なしとしません。「芽柳の震へに水面共鳴す」などもう一工夫あれば名句になりそうな予感がします。
〇穏やかな日常つづく芝桜 永河
【評】やや淡白で観念的な句との印象を受けました。「穏やかな週の始まり芝桜」など、もう少し具体性を加えたい気がします。
◎みつばちの巣箱ひつそり物見山 菓子
【評】自解によれば、「物見山は武田信玄が尾張を物見するために砦をもうけた」ところとのことです。そう言われると「ひつそり」が生きてきて、納得の一句です。
〇低く懸け雛鳥の声ききゐたる 菓子
【評】自分の行動を説明している句との印象を受けました。低く巣箱を懸けたとか、声を聴いているとか、自分自身の行動に焦点を当てるのでなく、雛鳥を主人公にした作りにしてほしいと思います。「雛鳥の声あふれでる巣箱かな」「巣箱より雛鳥の声洩れ出づる」などもう一工夫してみてください。
〇蒂数へ食べしいちごの数を知る チヅ
【評】なかなかユーモラスな句ですね。「蔕数へ食べたる苺十と知る」など、具体的な数を示す手もありそうです。
△~〇甘藍に群がりてつつきあふ チヅ
【評】甘藍とはキャベツの一種なのですね。何が群がっているのでしょう。「つつきあふ」から推測して、鳥でしょうか。とりあえず「甘藍に鴉群がりつつきあふ」としてみました。
次回は5月13日(火)の掲載となります。前日12日(月)の午後6時までにご投句いただければ幸いです。河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。