赤帽をよろしく

『赤帽創立十年史』には「赤帽歌」なるものも載っていた。♪小さな車で 大きな夢を 汗で築こう この腕に♪(赤帽歌一部)

先月のこと。
仕事で冷蔵庫1台の都内移動が必要になり、生協を通じて見積をとったら、
58,300円(税込)。
●●引越センターというところから、驚きあきれる数字が返ってきた。引っ越しシーズンとは言え、あんまりな金額。うちの冷蔵庫より高いじゃん!
あわてて搬出先近くの赤帽を調べて電話すると、「10,450円(税込)」と即答。まともな料金に胸をなでおろし、即、この赤帽に冷蔵庫運搬を依頼した。

3月は引越し業者の書入れ時。わが家では、隣りの足立区に引越す娘が、業者選びに引越しの一括見積サイトに自分の情報を入力した。
そしたらば、直後から電話が鳴りっ放し!
全部引越し屋の売り込みである。電話の応対で忙しくなっちゃって、検討する暇もないほどだ。

ホームページから申し込むと事業案内のDVDと赤帽ボールペン、赤帽クリアファイルが送られてきた

大量の業者からの売り込み内容を娘がメモした紙が残っているので、一部書き写してみると、・・・
●●センター
3月中旬ごろ 70000  以降 90000~100000円
××センター
3/15~19 税込42900円 20日 46000円
△△センター
日によらず38500円だが、混み具合によって値段が上がる。
即決の方が良い・・・ ダンボール大小10枚ずつ無料

などなど。3万円台から10万円台まで開きがあるし、同じ業者でも日によって違うし、サービスもいろいろ。大体安いと自分の条件と合わずで、娘の頭は混乱を来した。
見かねて、赤帽を推薦。タウンページの赤帽が載るページを開いて、ちょっとここでも聞いてみなよ、と娘に提案。娘、疑心暗鬼にそこに電話して問い合わせてみると・・・
やっぱり赤帽はよかった!
日によらず15000円と、単純明快、かつダントツの安さだったので、娘は赤帽で引越した。

10年前の引越しで使った赤帽段ボールは今も役に立っている

私は、今までの人生で引っ越しや荷物運搬、荷物移動に何度となく赤帽を使った。
赤帽推し。赤帽が大好き。

赤帽は1975年に松石俊男という人が始めた「庶民による庶民のための運送業」だ。
世は所得倍増、高度成長の使い捨て時代。大量輸送に力点をおく運送業界はもうけのあがらない軽車輛を廃車にしていったので、小荷物を運ぶ手段がなく、使い捨てに拍車がかかる事態となってた。
松石氏は、世に見捨てられた末端生活者の小荷物運搬を、自らの社会的使命と考えたのだ。
そのため赤帽は、利潤追求が第一の株式組織の形態ではなく、一人一人が個人事業主として自分が働いただけの収入を得る、共同組合組織となった。

だから各赤帽は大体一人でやってるから、人件費がなく安い上に会社でなく人なので、個性豊かであたたかい。
冷蔵庫運びを頼んだ赤帽は、近くまで来て道に迷ってるようなので迎えに出ると、向こうからゆるゆるとド派手なトラックが近づいてきた。
古ぼけた汚い車に、ネオンサインのようにライトがいっぱい取り付いた、ヤバいトラック。そしてその中から出てきた事業主である赤帽は、かなりおじいさんで、寒さで洟水をたらしていた。

書類なくしたくせに反省の色もないが、どうにも憎めない赤帽からのショートメール

この赤帽、とにかく書類仕事がへたくそで、ショートメールとファックス(メールをやらない)のやりとりを何度もやり直し繰り返すことになるのだけど、向こうからのショートメールにはその都度絵文字がついてきて、なんともかわいい赤帽だった。

一方娘が頼んだ赤帽は、依頼したとき「自分は高齢なので荷物おろしを手伝って下さい」と言ってきたそうだ。結構重い段ボールがいっぱいある。量もすごくて、赤帽の小さなトラックに入りきるかも不安だった。
そしたら当日、赤帽は1500キロの大きめトラックで、「友だち」という人物と一緒にやってきた。そして「高齢」と言ってたくせに少なくとも私よりは若く見え、元気いっぱい。明るくさわやかな赤帽だ。

DVDは、あなたも赤帽として起業しよう、という内容。見たら私も始めたくなった!

こちらは何ら手伝う必要なく、余裕でトラックに自転車も積みこめ、赤帽と「友だち」と娘、3人並んでトラックに乗りこみ、道々、ワイワイおしゃべりしながら楽しい引越しができたのだった。
トラック大きくても、「友だち」が手伝っても、料金は変わらず15000円ぽっきりだった。

赤帽(本部)には、ちゃんとホームページがあり、ネットで受注・配車も行ってはいる(ようだ)けど、私の知る限り、個人事業主たる赤帽たちのほとんどが、ネット社会と無関係に、仕事をしている。ネット世界の外に、彼らはいる。
だからこんな素敵な人たちがいることを、いくらネットで検索してもわからない。

iタウンページに載ってた近所の赤帽所在地に行ってみると、赤帽はなく、新しい巨大都営団地ができていた。

彼らを調べる頼みの綱の紙の電話帳も、発行が終了してしまい、赤帽たちの生き残りはこのままだとなんかちょっと厳しい気がする。こんなにいいのに。

ちょっとした家具の移動にも、赤帽は対応してくれる。赤帽。あなたの町の近くにもきっといる。
ぜひ赤帽を使って下さい。
赤帽をよろしく。

参考『赤帽創立十年史』(全国赤帽軽自動車運送協同組合連合会編、1988)

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塔島ひろみ<詩人・ミニコミ誌「車掌」編集長>
『ユリイカ』1984年度新鋭詩人。1987年ミニコミ「車掌」創刊。編集長として現在も発行を続ける。著書に『楽しい〔つづり方〕教室』(出版研)『鈴木の人』(洋泉社)など。東京大学大学院経済学研究科にて非常勤で事務職を務める。
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車掌27号かるた大(小)会もいよいよ大詰め。あと2回くらいで終了です。
次回は元たまの石川浩司氏が札を読む豪華な会。
飛び入り歓迎。気軽に遊びに来てください!


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