ビートルズ~抱きしめたい

酒田中心部の中町商店街(撮影:塔嶌麦子)

人口減少が深刻な問題になっている。
酒田の人口は、おれが子どもだった頃は13万人と言われていた。それが今では9万4千人にまで落ち込んでいる。この先2040年には7万人、60年には4万人というデータもある。減少の一途を辿っている。
市の財政も厳しかったのか、周辺の郡部と合併するなど、面積が広くなっただけで人口は一向に増えていない。学校などは統廃合が目立っている。
また、ここは町の中心部で市役所や銀行などの公共施設も多いのだが、歩いている人は殆どいない。ガランとして、まるで活気が見られない。シャッターを下ろした店も多く、例え新店舗となっても繁盛しているとはいえないようだ。
すっかり疲弊してしまったものだと、酒田に戻った頃はちょっとショックだったが、少子高齢化でもあることだし、こんなものだろうというのが正直な気持ちだった。昔はこんなではなかったが、なるようにしかならないのだと思っている。
丁度その頃だった。「まち・ひと・しごと創生法」という地方を活性化させるための法律が公布されたとニュースで見た。人口減少に歯止めをかける。東京一極集中を改める。安心した豊かな地域社会を形成する、などなど。これは国の責務だと言っていた。
あれから10年以上経つ。何か変わったのだろうか。法律まで作ったのだから国は厳正に対処すべきだが、あまりにも厳正すぎて、いくらお偉いさんでも仕事が出来ないのだろうか。地方創生大臣とやらはいったい何をやっているのかと思う。おれと同じで何もやっていないのではないかと。
だが、おれは何も期待はしていない。なるようにしかならないと思っているのは前述の通りだ。
高みの見物で何もしないおれが言うのも何だが、酒田も市を挙げて取り組んでいるのはよく分かる。お祭りなどのイベントや少子化対策など様々なことを真剣に必死で傾注しているのがひしひしと伝わってくる。
だが、結果が見えない。「未来へつなぐ。若い世代と共に。活気を取り戻す。郷土愛。Uターン。移住」などの決まり文句がむなしく踊っているだけのようだ。何か成果があったのか。例えば、あれこれ何年やってみて、こんな繋がりが出来たとか市報にでも掲載してほしい。おれも楽しければいいじゃないかというクチだが、せっかく素晴らしいスローガンを掲げてやっているのだから。
ごめんな。何もしないおれがしち面倒くさいことを言って。
ふるさとを悪く言う人はいないだろう。自分が生まれ育った町だ。誰だって思いは恋々とある。例え山河のない摩天楼がふるさとであっても、懐旧の念は禁じ得ないのではないのか。
そこで、おれも人口減少について少し考えてみた。「あなたも酒田で暮らしてみませんか」という文章で、微力ながらもありのままの酒田を紹介してみる。
酒田は一年中風が強い。冬は寒く、猛吹雪になる。交通が遮断され、陸の孤島と化してしまうことも多い。(出だしから暗い。いくら真実でも、これではダメだ)
酒田は最低賃金や出生率では全国最低レベルだが、高いものに注目すると、全国で常に1、2位を争っているのが車のガソリン代が高いことだ。人口減少率もトップクラスだ。(何だかなぁ。これだと誰も住みたくなくなる。ダメだこりゃ)。
でも、ちょっと待ってほしい。特に若い世代のあなただ。夢と希望をもってこれらの厳しさに立ち向かう。自分の力を試してみてはどうか。それでもし酒田で暮らすことが出来たら、あなたは全国のどこへ行っても通用する。間違いない。
おれに言われたくない。そうだよな。済まなかった。おれはどうして嫌なことばかりが先に浮かんでしまうのだ。
テーマは人口減少だった。解決策は国のお偉いさんですら難題だというのに、ぼんくらなおれに分かるはずがない。だが、一言で言わせてもらえば「まずは安心出来る世の中にすること」、抽象的だがこれに尽きると思う。
近年の不漁も、魚もきっと少子化になっているのだろう。ついでに、誰も言わないことだが、この問題は01年に小泉首相が打ち出した、「(セイエキ)なき改革」に起因している。これでは100%子どもは出来ない!?
また悪乗りして脱線してしまったが、酒田市長の新年のあいさつも人口減少が殆どだった。「若者が都会に流出しないよう職場の創出に力を入れる」。「目指す、推進する」などなど、言いたいことはよくわかる。が、これでは人口の奪い合いでしかない。日本全体の解決にはならない。
また、昨年の豪雨災害の復旧復興にも言及されていたが、被災地では田畑も全て奪われ今年からの作付けも出来ない状態だという。本当にお気の毒だが、ここにはもう住めないと言いながら家を直している人もいる。行政も人のいない所には河川等の工事にも十分なお金は出せないだろう。
そんなことを考えると、酒田の町へ移住したらどうかと思う。酒田の中心部に集まり、活性化させるのだ。思い切ってふるさとを捨てる。いや、ふるさとは捨てられないが、そこのところを何とか。山里は熊やイノシシにまかせておけばいい。行きたい時は近いからすぐ行ける。
いや、済まなかった。心ないことを言うつもりはない。ただ、根本的に意識を変えないと、こんな議論はいつまで経ってもかみ合わないということだ。
いくら限界集落などと言われようが、明るく活性化がある町であればそれでいい。人口が5万1万になっても生きて行ける。死ぬことはない。昔のように向こう3軒両隣の精神があれば共助にも繋がる。コミュニティを大事にすることが何より重要なのではないか。
さぁ、酒田のなごり雪も消えてなくなる。もうすぐ春だよ。
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斎藤典雄
山形県酒田市生まれ。高卒後、75年国鉄入社。新宿駅勤務。主に車掌として中央線を完全制覇。母親認知症患いJR退職。酒田へ戻り、漁師の手伝いをしながら現在に至る。著書に『車掌だけが知っているJRの秘密』(1999、アストラ)『車掌に裁かれるJR::事故続発の原因と背景を現役車掌がえぐる』(2006、アストラ)など。


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