「カナリア俳壇」114

かなか麗らかな天候には恵まれませんが、それでも少しずつ春らしさが増していることを実感するこの頃です。この時期ならではの句材を見つけに、わたしも吟行に行きたい気持ちが強まっています。学生の成績判定や卒論審査などで忙しい毎日ですが……。

◎ユトリロの街角のやう今朝の雪     瞳
【評】自分の町にいながらパリの下町にトリップしたような感覚を味わったのですね。白を基調にしたユトリロの絵が思い浮かびます。まさに雪の魔法でしょう。

△~〇犬山の路地裏歩む四温晴     瞳
【評】ただの報告どまりでしょうか。「歩む」は言わなくてもいいので、路地裏で発見したものを具体的に詠んでください。

△~〇木楢切りホダ木作りの初仕事     作好
【評】「木楢」は「小楢」でしょうか。全体的に重複感をおぼえる句です。ホダ木作りといえば仕事に決まっているので、下五は別の季語にしてはいかがでしょう。「小楢切りホダ木作りの三日かな」など。

〇冬の朝湯気立ち昇る田圃かな      作好
【評】幻想的な景ですね。このままでも十分にけっこうですが、「田圃より湯気昇りたり冬の朝」とする手もあります。ご自身で「最適解」を見出してください。

〇早春や土の香のぼる畦の道     美春
【評】鋭敏な感覚の句でけっこうです。「畦の道」は「畦道」と言ってしまいたい気がしますがどうでしょう。「畦道の土の匂ひや寒の明」など。

△~〇春泥に牧の羊は子を誘ふ     美春
【評】「子を誘ふ」が今一つ映像として捉えられませんでした。どんなふうに誘ったのでしょう。よい案が浮かびませんが、「春泥の羊のあとに子が続き」など目で見えような描写を心がけてください。

〇~◎本の背の揃ひて魚は氷に上る     徒歩
【評】ちょうど今頃の時候をさす難しい季語に挑戦しましたね。本の整理をしたこととの不思議な取合せの句です。「本の背を揃へて魚は氷に上る」とどちらがいいかでしょう。

◎船べりを叩く波おと義仲忌     徒歩
【評】季語の働きで、平家物語の時代の琵琶湖にタイムスリップしたようです。

〇~◎整へる布団の窪み未だ温し     白き花
【評】窪みがあるということは敷布団ですね。その窪みの温かさに注目したところがお手柄です。語順を入れ替え、「まだ温き布団の窪み平らかに」とするのも一法でしょうか。

△~〇しまひ風呂藁をひと焼べ(くべ)母に足す     白き花
【評】いい感じなのですが、季語が見当たりません。とりあえず「除夜の湯の母にひとくべ藁足せり」としておきます。

△~〇はらからと酔ひて母恋ふ花菜漬     妙好
【評】お酒を飲みながら花菜漬を食べたのですね。食材を二つ持ってくるのはあまりよくないので、酒を略すか、季語を変えたほうがよいでしょう。「はらからと酔ひて母恋ふ夜半の春」「はらからと母懐かしみ花菜漬」などもう一工夫してください。

〇待春や第二の職を夫辞する     妙好
【評】しみじみとした情感が伝わってきます。季語から察するに、また別の職を探しておられるのでしょうか。このままでも十分ですが、ご参考までに「待春や第二の職を辞めし夫」「第三の職さがす夫春近し」という別案も考えてみました。

◎手水舎の柄杓新し紀元祭     万亀子
【評】紀元祭とは橿原神宮で行われる最も重要な祭事。それを見に行かれたのですね。柄杓に焦点を当てたしっかりした作りの句です。

◎ワラビーの長き睫毛や日脚伸ぶ     万亀子
【評】ネットでワラビーを検索しました。小さなカンガルーのような動物なのですね。その睫毛という微細なものと「日脚伸ぶ」という大らかな季語との対比が効果を上げています。

〇~◎百のブイ並べる海辺草萌ゆる     恵子
【評】百のブイが壮観ですね。浜辺に置かれているのでしょう。その周りには草の芽が萌え出て、いかにも春らしい景です。

△~○地震の碑を囲む淡路の鼓草     恵子
【評】「淡路の」という修飾は鼓草ではなく碑に付けたほうが自然だと思います(別に淡路特産の鼓草があるわけでないので)。「たんぽぽや淡路の丘に地震の碑」などもう一工夫してみてください。

○~◎三日目のおでんに卵つぎたせり     利佳子
【評】すなおな日常句でけっこうです。まだ汁が染みていない白々としたゆで卵が思い浮かびます。

◎河豚宿の主と歌ふ反戦歌     利佳子
【評】主も団塊の世代でしょうか。時代への危機感を「河豚宿」という季語と巧みに取り合わせた句ですね。

○混沌と吼ゆるトランプ二月尽     永河
【評】時事をテーマとした句ですね。「混沌と吼ゆる」が日本語表現としてどうでしょう。よい対案が浮かびませんが、とりあえず「トランプ氏吼え混沌と二月果つ」「トランプ氏吼ゆる二月の混沌と」などと考えてみました。

△~○薄氷や紳士のごとく川流れ     永河
【評】「紳士のごとく」という比喩の評価が難しいところです。どうせなら「淑女のごとく」のほうが雰囲気が出そうな気がします。

○~◎眉をひく母の横顔かの子の忌     智代
【評】どれだけ岡本かの子を知っているかで、どんどん読みを深めることができそうです。しっかりとした写生句です。

〇手のひらに淡雪とける音聞かむ     智代
【評】心耳を澄まして聞こうというわけですね。ユニークは発想の句です。たとえば「てのひらの淡雪崩れ落ちにけり」とすれば「音」と言わなくても音が聞こえてきそうにも思いますがいかがでしょう。

◎竜の玉咥へひよどり飛び出せり     ゆき
【評】「飛び出せり」という表現に臨場感があります。しっかりとした写生句でけっこうです。

〇生きてるかと子が爺を見に雪の朝     ゆき
【評】「子」と「爺」の関係がちょっとわかりづらいのですが、この子はお孫さんでしょうか。爺でなく自分のところへ孫が訪ねてきたことにし、「生きてゐるかと孫が来し雪の朝」とするとわかりやすいように思います。

△~〇春宵やエイのヒレ買う魚市場     欅坂
【評】まず「買う」は「買ふ」。「エイ」も「ヒレ」も和語ですので片仮名でなく平仮名か漢字にしましょう。「春宵やえひの鰭買ふ魚市場」となります。

△~〇啓蟄や光を受けて庭灯り     欅坂
【評】「光」と「灯り」の重複感が気になります。「啓蟄やガーデンライト熱を帯び」などいろいろ考えられそうです。

次回は3月11日(火)の掲載となります。前日10日(月)の午後6時までにご投句いただければ幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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