NHKの朝ドラ「おむすび」の主人公が、管理栄養士として勤務している病院でのシーンがSNSで話題になっています。摂食障害(拒食症)の高校生が、「親(母親)というのは自分のことより子どもが大切」という主人公の説得で、食事を食べるようになるというシーンです。このシーンについては、「彼女は摂食障害ではなく、肝機能障害だ」という指摘も見かけたので、本当のところはわかりません。ただ、実際に摂食障害であった主人公の学友についての回想シーンが出てくることなどから、視聴者がそのように理解するような描写がされているとは思います。
このシーンを見て私が感じたのは「心の病」と呼ばれるものについて、広く持たれている誤解です。それは、「『心の病』だから『心の持ちよう』を変えれば治る」というものです。ドラマでは「母親の愛情を確認できたから、食べられるようになった」という描写がされることになります。しかし実際は、そんな単純ではありません。そもそも「母の愛が薄いから摂食障害になる」わけでもありません。
BPSモデル(生物-心理-社会モデル)という考え方があります。精神疾患発症の背景には、生物学的背景、心理的背景、社会的背景のすべてがあるというものです。精神機能は基本的には脳がつかさどっていますが、脳は身体を構成する臓器の1つであり、他の臓器と相互作用しながら動いており、生得的なものも含めて個々人の身体の特徴や状態の影響を受けます。社会的背景も重要です。今回のドラマの場合、「好きな先輩から太っていると言われた」ことが食事を拒否するきっかけであり、「お母さんがたくさんの料理を食べさせたからだ」と母を憎むようになるという展開でしたが、その背後には膨大な社会的・歴史的背景があります。痩身であることを美しいと喧伝するメディアの存在、恋人がいないことを恥とする社会規範、完食を強制する教育体制がもたらす息苦しさ等々、書ききれないくらいのものがあります。それらが複雑に絡み合いつつ、個々人の心身を抑圧して疾患を生み出しているわけです。
「母の愛を示せば治る」という心の問題だけに焦点を当てた描写(しかも現実的にはあり得ない描写)は、この病気に苦しんでいる患者さんやその家族に対する誤解を広げてしまうもので、非常に危険なことでもあると思います。
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「心の病」は「心だけの病」ではない
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