かわらじ先生の国際講座~米露首脳の思惑とウクライナ戦争の行方

画像なし2月24日でウクライナ戦争が開始されてから丸三年となります。この間、いくつもの国のリーダーたちが停戦のための仲介役を名乗り出ましたが、どれも不首尾に終わっています。こうなるといよいよ当事国であるロシアと新政権を発足させた米国のトップ会談しか策はなさそうな気もしてきます。両者ともに対話に意欲を示していますが、近々停戦に向けて前進は見られるのでしょうか?

もう一方の当事国であるウクライナのゼレンスキー政権の思惑も考えに入れる必要はありますが、とりあえずここでは、第一に米露首脳がどの程度本気で停戦を望んでいるのか、第二にいかなる条件であれば停戦の実現が可能と考えているのかを見極めることが重要でしょう。

画像なしまず米国のトランプ大統領の思惑はどうですか?

トランプ氏は大統領選挙キャンペーン中、自分が大統領になれば24時間以内にウクライナ戦争を終結させると言っていましたが、これは彼一流の大言壮語で、額面通りに受け取ることはできませんでした。ところが1月7日の記者会見では、「(大統領就任から)6カ月で、できればそれよりずっと前に終わらせたい」と言い方を変えました(『日経新聞』2025年1月9日)。この問題に対しより現実的になったと考えられ、それだけ真剣味が増したと受け止めることができるでしょう。
1月20日の大統領就任演説では、ウクライナ戦争への言及はなかったものの、「政府は外国の国境を守るために際限なく資金を投じながら、米国の国境とさらに重要な自国民を守ろうとしなかった」という一文は意味深長です。「外国の国境を守るため」云々という個所は、バイデン政権によるウクライナへのふんだんな軍事支援を指していると読めるからです。その政策を転換させるとの意思表示と解釈できます。実際トランプ氏は、大統領就任当日、対外援助プログラムを90日間停止する大統領に署名しました。これにはウクライナへの人道支援も含まれます。
就任翌日の21日、トランプ大統領はホワイトハウスで記者会見し、ロシアのプーチン大統領と「非常に近い内に話すことになっている」と述べました(『朝日新聞』2025年1月23日)。さらに翌22日には、SNSへの投稿のなかで、プーチン大統領が停戦の取引に応じなければ、高い関税や追加制裁という策を講じるだろうと圧力をかけつつ、取引に応じるならば「経済が破綻しているロシアとプーチン大統領に大いに便宜を図るつもりだ」とも語って硬軟織り交ぜてのメッセージを送りました(『朝日新聞』2025年1月24日)。

画像なしでは、プーチン大統領の思惑はどうなのでしょう?

プーチン氏はトランプ大統領就任式当日(1月20日)に安全保障会議を開き、その席から「大統領就任を祝福する」とのメッセージを発し、トランプ氏がロシアとの直接対話に積極的であることを評価しました。そして「危機の根本原因を取り除くことが重要だ」と述べ、「短期的な停戦ではなく、長期的な平和が目標だ」とのビジョンを示しました。

トランプ大統領となら実のある交渉ができるとのプーチン大統領の期待感は、1月24日の国営テレビとのインタビューで一層明確に表明されました。そのなかでプーチン氏は、2020年の米国大統領選で「(バイデン氏)に勝利が盗まれなかったら、ウクライナ危機は起こらなかった」と語りました。そしてバイデン前政権は「ロシアとの接触を拒否した」が、トランプ氏は「常にビジネスライクで信頼関係を築いてきた」と論じたのです。前回の大統領選ではバイデン氏に「勝利が盗まれた」とはトランプ氏がずっと言ってきたことですが、プーチン大統領はそれに同調する姿勢を示し、あたかもウクライナ戦争はバイデン大統領のせいで起こったのだととれるような言い方でした(『讀賣新聞』2025年1月26日)。
そしてこの言い方自体が、トランプ氏の主張を追認するものだったのです。トランプ氏は、たとえば2024年6月27日の大統領選討論会で、もし自分が大統領であればロシアによるウクライナ侵攻やハマスによるイスラエル攻撃は起こらなかったと主張していました。

画像なしこうしてみるとトランプ氏とプーチン氏は馬が合うというのでしょうか、不思議と言い分が一致しているように思われるのですがどうでしょう?

たしかにそうですね。トランプ氏自身、かねがねプーチン大統領とは良好な関係にあると言っていましたが、最近出されたドイツのメルケル前首相の『回顧録』でも「トランプ氏はプーチン氏に魅了されていた」との記述がある由です(『朝日新聞』2024年11月27日)。ウクライナやNATO諸国のリーダーたちは、米露のトップが自分たちの頭越しで物事を決めてしまうことに大きな懸念を抱いているのではないでしょうか。

画像なしウクライナ戦争の行方はどうなるのでしょう?出口は見いだせるのでしょうか?

プーチン政権の立場はほぼ一貫しています。停戦交渉の前提として、ロシアが占拠しているウクライナ東・南部4州からウクライナ軍が撤退すること、そしてウクライナのNATO加盟をきっぱり否定することです。さらにロシア側は、戒厳令の延長を理由にゼレンスキー氏が大統領選挙を行わず権力の座にいることを問題視し、同氏が交渉相手として正当性を欠くとの問題を提起しています。

これに対し、トランプ氏の和平案はまだ明らかではありませんが、昨年来、側近たちの間ではウクライナ領のロシアへの一部割譲案や今後少なくとも20年はウクライナのNATO加盟を認めないといった案が出されているようです。これはロシア側の要求とかなり重なります。

さらに2月1日にロイターが報じたところによれば、トランプ政権のもとでウクライナ・ロシア問題を担当している特使のキース・ケロッグ氏は、まずウクライナで大統領選挙を実施し、その勝者が停戦合意交渉の責任者になるべきだとする考えを述べたとのことです。この点もロシア側の言い分とかなり近いと言えるでしょう。

あえて深読みをすれば、米露首脳は徹底抗戦を唱えてきたゼレンスキー大統領を蚊帳の外に置く形で、すなわち「ポスト・ゼレンスキー政権」を見据えての停戦合意を模索しているようにも感じられます。
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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。 同大学院修士課程修了。 専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。 俳人協会会員でもある。 俳句誌「伊吹嶺」主宰


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