「カナリア俳壇」113

寒中お見舞い申し上げます。わたしが居住する関西は、割と穏やかな天候続きで助かっていますが、皆様のところはいかがでしょう。暦の上ではあと一週間で春となります。まさに待春の気分ですね。

△~〇綿虫は可愛顔してつれなくて     作好
【評】まず「可愛顔」(かわいがお)は舌足らずですので、「可愛い顔」としましょう。すると中七が字余りになります。中八はどうしても避けなくてはなりませんので、字余りにするなら上五にもってきましょう(上五の字余りは大目に見てもらえます)。「可愛い顔してつれなくて綿虫は」としてみました。

〇寒暁や新聞届く音のする     作好
【評】「届く」「する」と動詞が2つありますが、推敲のポイントは可能な限り動詞を減らすことです(できれば1つ以内に)。たとえば「寒暁や新聞受を開く音」など。

〇壇上に師の笑顔あり新年会     瞳
【評】「あり」は不要ですので、どう消すかが推敲のポイント。「壇上の講師の笑顔新年会」とする手もありますが、漢字が5つ以上続くと句が黒っぽくなってよくありません(わたしは漢字が続くときでも4つ以内に、と心掛けています)。とりあえず「壇上の師はにこやかに新年会」としておきます。

〇どんと焼雨に散りゆく村の衆     瞳
【評】俳句では、上五と下五がともに名詞になる形を極力避けてください(ともに名詞になる形の句はサンドイッチ俳句とか仏壇俳句とか言って嫌われます)。「一雨に村衆散れりどんと焼」としてみました。

〇霜の朝小さき足跡畑たどる     美春
【評】おおむね結構と思います。「畑たどる」がやや曖昧な気がしました。「畑までちさき足跡霜の朝」くらいでいかがでしょう。

〇~◎初暦畑の段取り記すなり     美春
【評】生活感が出ていて大変結構です。もう少しシャープな感じにするなら「初暦畑の段取りまづ記す」とするのも一法でしょうか。

〇~◎室咲や激論止まぬ理髪店     徒歩
【評】情景が見えるようです。ただ、「激論」だと店主と客が喧嘩しているようにも読めますので、「政談」などに置き換えてもいいかもしれませんね。

〇~◎梅探る学長像を一瞥し     徒歩
【評】「一瞥し」に作者のどこか屈託した気持ちが感じられ、俳諧味がありますね。動詞を1つ減らすなら、「学長の胸像あふぎ探梅行」とする手もあります。但しこれだと敬意を込めた句になりますが。

〇雑煮食ぶ椀に沈むは柚子の片     ゆき
【評】「食ぶ」「沈む」と動詞が2つあるため、どうしても説明的な句になってしまいます。「刻み柚子底に沈みし雑煮かな」などもう一工夫してみてください。

△~〇三が日トランプでもと夫に言い     ゆき
【評】「言ひ」と表記してください。「三が日」は三日間、それに対して「言」うのは一瞬の行為ですので、ちょっとちぐはぐな感じを受けます。「トランプを夫とふたりで三が日」と考えてみました。

〇孫揃ひスキーツアーへ年の暮     久美
【評】「スキー」「年の暮」と季重なりではありますが、生活実感が出ていますので、このままで結構です。

△~〇満天の星きらめけり下呂の湯屋     久美
【評】季語がありません。いろいろ工夫できそうですが、とりあえず「宝石のやうな凍星下呂の湯屋」としておきます。

〇舞う鳶の風に流るや冬の海     恵子
【評】「舞ふ」と表記してください。ただ、わざわざ「舞ふ鳶」と言う必要はないように感じます。「鳶風に流されゐるや冬の海」、あるいは別の句になってしまいますが、「鳶吹かれ冬の怒濤をすれすれに」とすれば一層臨場感が出るように思います。

◎アップルパイ作る母と子日脚伸ぶ     恵子
【評】季語の本意をきちんと踏まえ、情景もしっかりと見えてくる佳句です。

△~〇裂帛の気合畳に初稽古     妙好
【評】剣道の稽古だと思いますが、「裂帛の気合」という慣用表現にもたれかかってしまうと、文学としての創造性はなくなります。何とか写生ができるといいですね。とりあえず「大ぶりの竹刀床打つ初稽古」など。

〇冬萌の畦で鼻歌キャンディーズ     妙好
【評】この句の形ですと、キャンディーズの3人組が畦で歌っているみたいです。うまく添削できませんが、「冬萌や鼻歌いつもキャンディーズ」としておきます。

△~〇侘助の蕾が多く兆し待つ     欅坂
【評】「兆し待つ」が今一つ。「侘助の蕾つぎつぎ咲く兆し」くらいでどうでしょう。

〇~◎寒椿花の散り際見届けん     欅坂
【評】気迫の一句ですね。「花」は言わずもがなですので、「寒椿散り際しかと見届けむ(ん)」としてみました。

〇冬夕焼長く水脈引き舟帰る     万亀子
【評】情景がよく見える句です。しかし少々散文的な感じもしますので、明確な切れを入れてはいかがでしょう。たとえば「水脈長く引き来る舟や冬夕焼」など。

◎土鍋炊き潮の香りの牡蠣ご飯     万亀子
【評】とても美味しそうな牡蠣ご飯です。「潮の香り」から海辺の景まで連想されます。

◎ふうはりと積もりし雪に顔埋む     白き花
【評】幸福感が伝わってくる句です。「ふうはりと」が効いていますね。

△~〇月凍つる貰い湯帰り下駄の音     白き花
【評】「貰ひ」と表記してください。このままでは三段切れですので「貰ひ湯帰りの」としなくてはなりませんが、そうすると中八になってしまいます。「凍月や貰ひ湯あとの下駄の音」として句形を整えてみました。

〇なまこ壁膨らむやうに冬桜     永河
【評】上五・下五がともに名詞のため、「膨らむやうに」が「なまこ壁」にも「冬桜」にもかかっているように読めてしまいます。これはなまこ壁のことだと思いますので、切れを明確にし、「なまこ壁膨らむやうや冬桜」でどうでしょう。しかし、この句は「まなこ壁」と「冬桜」の2つに焦点が分散しています。この際、「なまこ壁」中心の句にして、たとえば「春の日に息づくやうや海鼠壁」などとする手もありそうです。

〇~◎ゆるぎなき寒満月の白さかな     永河
【評】俳句は断定の詩ともいわれます。この句はまさにその適例ですね。

〇~◎小町紅うつすら点すや久女の忌     智代
【評】あでやかな雰囲気の句です。上五・下五がともに名詞になる形を避け、「うつすらと小町紅さす久女の忌」あるいは「久女忌やうつすらと点す小町紅」とするのも一案です。

〇春近し透かす紅茶はルベライト     智代
【評】ルベライトは宝石名なので、色の名称として使っていいのかどうか迷うところですが、美しい句です。原句から少し離れますが「ルベライトいろの紅茶や春ちかし」と考えてみました。

〇ねこバスの音なく駆ける冬の森     紅子
【評】メルヘンチックな句ですね。語順を入れ替え、「音もなく駆けるねこバス冬の森」としたほうが一句に張りがでる気がします。これは口語調ですので、無理に「駆くる」とせず、「駆ける」のままで結構でしょう。

◎椋鳥の騒ぐ一樹の膨らめり     紅子
【評】こちらも童話の世界のようです。一樹の膨らみに生命感がみなぎっています。

次回は2月18日(火)の掲載となります。いつものように前日17日(月)の午後6時までにご投句いただけると幸甚です。なお、2月17日は所用が重なるため、掲載は翌18日の午後になるかもしれませんがご了承ください。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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