かわらじ先生の国際講座~今後の米中関係はどうなるか?

画像なし米国のトランプ氏は、来年1月の新政権発足に向けて、矢継ぎ早に新人事の構想を明らかにしていますが、対中国強硬派として知られる人たちの重用が注目されます。
国務長官への就任が予定されているルビオ上院議員は、香港政策をめぐり米国が中国人要人に制裁を科したことへの対抗措置として、中国が入国を禁じている人物の一人です。このままですと、中国に入れない国務長官ということになりかねません。
国家安全保障問題担当の大統領補佐官に起用されるウォルツ下院議員も、下院における中国批判の急先鋒として有名で、台湾への武器輸出推進派の一人です。
トランプ氏が大統領に返り咲くことにより、今以上に米中関係が悪化しないかと危ぶみますが、いかがでしょう?

トランプ氏自身、大統領選挙期間中、中国への強硬発言を繰り返してきました。同氏は「私の辞書の中で最も美しい言葉は関税だ」と言い放ち(『京都新聞』2024年11月18日)、「タリフマン(関税の男という意味)」を自称しているとか(『京都新聞』2024年11月17日)。そして大統領に就任後は、諸外国からの米国への輸入品に一律10~20%、中国からの輸入品には60%の関税を課すると言っています。
トランプ氏は第1次政権時に、中国による貿易赤字を問題視し、制裁として最大25%の関税をかけましたが、第2次政権ではそれを一気に60%に引き上げようというのですから、中国側も相当警戒しているはずです。さらにトランプ氏は、台湾問題に関しても、「中国が台湾に侵攻するなら150~200%の関税を課す」との意向も示しています(『朝日新聞』2024年11月18日)。中国と張り合うための武器を関税としているところは「タリフマン」の面目躍如といったところでしょうか。

画像なしトランプ氏が側近として登用しようとしている人たちは、安全保障面を含め、対中強硬派なのに、自らはあくまで関税という経済的手段で中国に対抗しようとしているところが目をひきますが、そのへんでバイデン現政権との違いは出てくるのでしょうか?

その点こそが一番注目されるところで、なおかつ見極めの難しいポイントでもあります。バイデン大統領は、就任後初の記者会見(2021年3月25日)で、世界を「民主主義VS,専制主義」の対立と見立て、専制主義の筆頭としての中国を厳しく批判しました。そして中国の軍事増強を警戒し、同盟国の結束を呼びかけました。それに呼応して我が国も防衛予算を大幅に増額し、南西諸島のミサイル基地化を推し進めたのです。つまりバイデン政権では、中国とのイデオロギー対立や軍事的対峙が前面に押し出され、経済的側面はあまりおもてに現れなかったように思われます。トランプ新政権になれば、そこが逆転する可能性があります。
トランプ氏はそもそもイデオロギーなどにはさほど関心がありません。彼はあらゆる問題をビジネスの損得勘定に還元して行動するところを最大の特徴としています。政治家というより、「アメリカ株式会社」の社長として振舞うことが予想されます。経済的なコストパフォーマンスこそが彼の行動の基準なのではないか。そう感じます。

画像なしということは、金持ち喧嘩せずではありませんが、トランプ政権になれば軍事的対立は軽減し、世界もより平和になるということですか?

そう単純ではないと思います。米国にしても過去の政策の積み重ねがありますし、議会もあれば官僚機構も機能しています。大統領の一存ですべてが決まるわけではありません。従来との継続はそれなりに尊重されてゆくでしょう。ただ、中国との対立は「貿易戦争」の様相を強めていくものと考えられます。

画像なしとなると、中国側の出方も気になりますね。中国も同じ土俵で、すなわち経済的なフィールドで米国と競合していくのでしょうか?それとも海洋進出と台湾統一に向け、米国との軍事対決も辞さすとの姿勢を崩さすに進むのでしょうか?

その点についても現段階では判断の難しいところですが、先日、ペルーの首都リマで開かれたAPEC首脳会談に出席した中国の習近平国家主席の言動から、ある程度推察することができるように思われます。
APEC首脳会談には米国のバイデン大統領も出席し、11月16日にリマのホテルで米中首脳会談が行われました。この会談は1時間40分に及んだといいます。同時期に行われた日中首脳会談は35分程度だったそうですから、その約3倍の時間を両首脳は話し合ったことになります。すでにバイデン氏の退任が決まっていることを考えれば、この長さは驚くに値します。習近平主席がバイデン大統領とはあまり話し合う必要がないと判断すれば、もっと短い会談で済ますこともできたはずです。習氏としてもトランプ新政権に対する懸念はかなり大きいのでしょう。それゆえ、米国で新政権が発足する前に、米中関係の基本をしっかりと確認し、トランプ氏にもそれを遵守させたいとの思惑があったものと推測されます。
米中会談では二国間関係、台湾問題、南シナ海問題、ロシアや北朝鮮のことなど多岐にわたる意見交換がなされた由ですが、習近平氏は「相互尊重、平和共存、ウィンウィンの協力に基づき中米関係を管理する原則は変わらない」と強調し、「中国は米国との対話を保ち、協力を拡大し、相違点を管理し続けることを望む」と表明しました(『日経新聞』2024年11月18日)。おそらくこれはトランプ新政権へのメッセージでもあるのでしょう。
かたや経済的には高圧的に対中政策を推し進めようとするトランプ次期大統領、かたや米国との「ウィンウィンの協力」を呼びかける習近平主席。この両者がこれからどのような関係を切り結ぶのか、大いに注目したいところです。まずは中国側の譲歩が先に見られるかどうかが焦点でしょうか。というのは、ルビオ次期国務長官は、中国側の制裁によって同国への入国が禁じられています。このままでは外交ができません。この制裁をまず中国側に解除させるというのがトランプ氏の最初の一手かもしれません。
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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。 同大学院修士課程修了。 専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。 俳人協会会員でもある。 俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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