「カナリア俳壇」109

ようやく秋らしい青空が広がる日和になりました。とはいいながら、今月7日は立冬です。秋の句をあまり残せないまま冬の句へと気持ちを切替えなくてはなりません。気ぜわしいことです。

△~○ギョロリンと吾を見返す鬼やんま     作好
【評】「ギョロリンと」という表現の面白さを味わう句ですね。オノマトペの面白さに頼る句はどうしても深みに欠けます。いわば一筆書きの面白さとでもいいますか。「鬼やんま」と向き合うなかで、もっと写生を深めてほしい気がします。

○ここが好き朝日の中をアキアカネ     作好
【評】「~が好き」というフレーズは、平成期に割と好まれ、俳壇に新風を吹き込みましたが、さすがに類想的になってきました。とはいえ、明朗さが魅力的ですね。

△~○芒の穂陽の光浴び手招きす     白き花
【評】「陽浴び」と「手招きす」という動詞の並列が一句を重たくし、調べを悪くしています。「日あたりの芒手招きしてゐたり」としてみました。ひらがなを増やすと、字面が明るくなり、日のあたる感じが出てくるように思います。

○石蕗の咲きたる辺り明るかり     白き花
【評】「石蕗の花が咲いて庭を明るくした」という句はしばしば見かけますので、類想的ではありますが、それでもいい雰囲気の句と思います。

△~○あきつ飛ぶ地図を片手にアート巡り     ゆき
【評】下五の字余りがよくありません(6音になっています)。ぜひ575に収めてください。とりあえず「あきつ飛ぶアート巡りの地図を手に」としてみました。

○煙草止め病人ぶるや夫の秋     ゆき
【評】「夫の秋」という季語はありませんし、造語としてもやや強引な気がします。「秋の夫」とすればOKです。病人ぶるだけならよいのですが、少し心配ですね。

△~○地に頭擦りて踊るや福禄寿     瞳
【評】福禄寿が出てきますので、どこかの秋祭であることは想像がつきますが、このままですと季語としては盆踊に分類されてしまいます。やや言葉の詰め込みすぎですが、「地に頭擦り福禄寿踊る秋」としておきます。

△~○連獅子の気迫の舞や里祭     瞳
【評】俳句では「気迫」という言葉を出してはいけません。その「気迫」をどれだけ生き生きと具体的な動作によって表現できるか。そこが俳句の勘所です。どんなところに気迫をおぼえたのか、そこを写生してください。

△~○里辺りたわむ熟柿に迎へられ     美春
【評】まず、「たわむ」のは熟柿でなく、枝ですね。「迎へられ」が消えてしまいますが、一案として「里端の枝たわわなる熟柿かな」としてみました。

△~○いぼむしり身の丈以上の間を取りて     美春
【評】中七の字余りがいけません(8音になっています)。「いぼむしり身の丈ほどの間を取れり」くらいでどうでしょう。なお、下五を連用形にするのは川柳の作法で、俳句は終止形で収めるのが基本です。

△~○歌ひ手のギター一本律の風     徒歩
【評】路上ライブの風景ですね。季語まで「律の風」だと一句が音楽尽くしとなり、単調な感じがします。また「一本」は言わなくてもわかるのでは?原句からは離れますが、小林旭主演の「ギターを持った渡り鳥」を連想しつつ「歌ひ手の友はギターよ雁渡し」と考えてみました。

○秋惜しむ観客席に二人して     徒歩
【評】何の観客席かわかると更によくなりそうです。「晩秋や路上ライブを聞く二人」などもう少し工夫できそうに思いました。

△~○ちちろ鳴く真夜に水飲む影法師     妙好
【評】「影法師」というと昼間の日差しを連想させます。「ちちろ鳴く真夜の厨へ水飲みに」など、もう少し具体的な景が見えるように推敲してみてください。

○~◎祝杯や古都の楓も色づけり     妙好
【評】先日の京都での祝賀会の様子ですね。自祝の句と思いますがいい感じです。ほろ酔い加減と楓の色づきを重ね合せ「祝杯や古都の楓もほの赤く」とするのも一興かも。

△~○水底の影みな正し園の秋     万亀子
【評】「園」が公園なのか幼稚園なのか動物園なのか、今一つ曖昧です。「正し」もどうでしょう。影がくっきりしているという意味だと思いますので、たとえば「水底の影くつきりと里の秋」などもう一工夫してみてください。

○群れ離れ海猫一羽秋の浜     万亀子
【評】概ねけっこうですが、上五が「群れたり離れたり」の意味にもとれますので、「離れゆく海猫一羽秋の浜」でどうでしょう。

△~○庭に散る金木犀の匂い放つ     千代
【評】下五が字余り(6音)ですね。「庭に散る金木犀の匂ひけり」あるいは「庭に散る金木犀の匂ひ立つ」でいかがでしょう。

△~○銀杏の固い殻むき額汗     千代
【評】下五の「額汗」が表現として窮屈です。「固い」も「固き」と文語調にすると一句が引き締まります。「銀杏の固き殻むく汗浮かべ」としてみました。

○柿たはは獲る人のなき荒地かな     永河
【評】「たわわ」は歴史的仮名遣いでも「たわわ」で変わりません。また、この句形ですと上五で切れが入ってしまいますが、「かな」止めの場合、句の途中に切れを入れないのが一般的です。「たわわなる柿手つかずの荒地かな」など、もう少し考えてみてください。

○箒草色付かぬまま刈られけり     永河
【評】これも暑さ続きの異常気象のせいでしょうか。たしかになかなか赤く色づきませんでしたね。すなおに詠まれた句でけっこうと思います。

◎風さやか牧に羊を描く子等     恵子
【評】伸び伸びとして気持ちのよい句です。晴れ渡る空の下、牧場で羊のスケッチをしている子供たちの姿が思い浮かびました。

◎薪を積む民家の軒や残る虫     恵子
【評】これも着実な写生句です。もう山里の人々は冬支度を済ませているのですね。弱々しい虫の声が秋の終りを告げているようです。

△~○秋の夜半踵落としのピチカート     智代

【評】「骨粗しょう症の予防」と自注がありました。「ピチカート」をネットで調べると「音楽用語。バイオリンなどの擦弦(さつげん)楽器の弦を指ではじいて音を出す技法」と出ていました。こうした調べに合せて「踵落とし」をするのでしょうか。わたしには難解な句でしたが、わかる人にはわかるのだと思います。

○藻の蔭に動かぬ目高冬近し     智代

【評】寒くなると目高の動きもとまるのですね。目高が夏の季語であることや、内容が理屈で割り切れるところが少し気になるものの、とりあえずすなおな句でけっこうです。

○焦げのある松茸ご飯友と食ぶ     ちづる
【評】「友と食ぶ」から和気藹々として楽しそうな情景が想像されます。すなおな作でけっこうでしょう。

△~○七五三前撮り写真首すくめ     ちづる
【評】「前撮り」はカットしたほうがよいでしょう。「首すくめ」がだれのことかはっきりさせ、「七五三首をすくめる子の写真」としてみました。

○昼神の朝市で買う鷹の爪     欅坂
【評】すなおな吟行句でけっこうです。「買ふ」と表記してください。

△~○バスで行くあさひ苑かな秋高し     欅坂
【評】これではただの報告どまりですね。また、バスの車中にいるのですから、空の高さも実感できないのでは?「バスでゆく温泉郷や紅葉分け」など、もう少し具体的な情景を描いてください。

○桃介の鞄の凹み鳥渡る     小秋
【評】名古屋・文化のみち二葉館(旧川上貞奴邸)での嘱目句ですね。室内での吟ですので、季語がミスマッチのように感じます。「桃介の鞄の凹み秋闌くる」など、ご再考ください。

~◎紅葉谷猿の吊り橋手すりなし     小秋
【評】猿が通る吊橋には手摺りがないのですね。ユニークな発見の句です。このままでもけっこうですが、語順を入れ替え、「手すりなき猿の吊り橋紅葉谷」とする手もあります。

次回は11月26日(火)の掲載となります。前日25日(月)の午後6時までにご投句頂けると幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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