袴田巌さんの無罪が確定し、冤罪が起こりがちな日本の刑事システムに対する批判も高まっている中、大変興味深い記事を見かけました。
京アニ事件の発生時の取材に関わった人間として、青葉被告の凄惨な再犯をなぜ防げなかったのか?というテーマを細々と続けています。
河井元法相が彼と同じ喜連川の刑務所に入所していたと知り、その観点で取材しました。入獄した元法務大臣の河井克行氏が見た刑務所の世界 https://t.co/3x8cp7oi6D
— Atsushi Takeda @『ある行旅死亡人の物語』 (@kouryo_authors) October 8, 2024
贈収賄事件を起こして服役した河井元法務大臣へのインタビュー記事です。「次は良い大臣になるよ」との発言があったそうですが、その真意が語られています。服役して初めて知った刑務所のあり方に衝撃を受けたこと、これでは服役者が孤立して再犯可能性を高めてしまいかねないことなどを語っています。法務大臣として、書類を見ていただけでは気づかなかったことへの反省も、率直に述べていると思いました。
河井氏にはもう一度大臣になるよりは、司法の在り方を変えていくための活動を市民レベルでやってもらいたいなと個人的には思いますが、大事な視点だと思いました。
河井氏とは異なって冤罪での服役でしたが、村木厚子さんも、彼女に食事を届ける役割をしていた女性の服役者との出会いをきっかけに、現在は若年女性のシェルターを作る活動をされています。
9月末に最終回になったNHK朝ドラ「虎に翼」でも、犯罪を起こした未成年者を成人と同様に厳罰に処すようにしようとする勢力に対して、主人公たちが抵抗していく場面がありました。この頃の歴史背景がこちらにまとまっていました。
いずれも「厳罰で犯罪が減る」「厳罰によって反省する」という素朴な考え方に対して、「はて?」と疑問を投げかけているように思います。実際のところ、世界では死刑廃止が一般的になりつつありますが、死刑という制度の非人道性に加えて、犯罪抑止効果がないことが背景にあります。
死刑制度を残している国の方が少数派です。
アムネスティの「死刑廃止」WebページのFAQより。
"死刑には、他の刑罰に比べて特別な抑止効果があるとはいえない、というのが今日の世界における共通の認識です。"https://t.co/RG2Rr4JQzF https://t.co/t3EG44wK9p
— 星 暁雄 (ITと人権) (@AkioHoshi) October 8, 2024
2022年4月に成人年齢が18歳に下がったのに伴い、18歳と19歳で犯罪を犯した人への少年法上の対応が変更になりました。こちらの音声および記事で内容と問題点を確認していただけます。
それ以前の日本の少年司法は、諸外国と比べても上手くいっていた(再犯率が低かった)のです。にもかかわらず、制度を変更してしまうことで、若年で犯罪を犯した人たちの社会復帰がうまくいかなくなることが懸念されています。
刑事罰については専門外ですが、何のために刑罰を与えるのかを私なりに考えると、犯罪の抑止、再犯の防止、公的な報復(被害者に代わって公が罪に報いる)といった理由があるのだろうと思います。しかし、ただ単に非人道的な状況に服役者を置くことが、再犯防止につながるわけではないことはすでに科学的に明らかになっています。
他方で、「しんどい思いをさせられる」というところがないと、犯罪抑止や公的報復にならないという考え方もあると思います。この点について改めて考えたいのは、「しんどい思い」をどういう形でするのか、ということではないかと思います。自分が犯してしまった罪や被害者の気持ちと向き合うことは、心理的に苦しいことです。さらに、犯罪に至る過程では、当人の成育歴等に少なからぬトラウマ体験があることもあり、それらと向き合っていくことは、とても苦しい作業なのです。けれどもそれらができて初めて再犯抑止になりますし、反省にもつながります。そしてそれらは、専門職の介入がなければ実現しません。心理学ではこれを、加害者臨床と呼ぶこともあります。
加害者が真に変わらなければ、被害者も救われないし、一般の人々も安心できません。厳罰一辺倒の司法の在り方で良いのかどうか、罪を償わせるとはどういうことであるのか、改めて考えてみませんか?
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