「カナリア俳壇」107

能登半島を襲った豪雨のニュースをいたたまれない気持ちで見ています。われわれ俳人が向き合っている自然とは、これほど苛烈で情け容赦のない存在なのだという思いを新たにしています。

〇秋日差す窓辺や友の句集読む     瞳
【評】のどかな景です。「窓辺や」と切らず、「窓辺に」としたほうがリズムがいいかもしれません。

△~〇寺の書に青山有りや十三夜     瞳
【評】寺の掛け軸に「青山」と書かれていたのですね。「有りや」だと疑問形になってしまうので、中七「青山と有り」でどうでしょう。

△~〇虫の音に仕立てせかさる山の畑     美春
【評】畑の仕立てですので、「畑」と「仕立て」はできるだけ近づけたいところです。「山畑の仕立せかせり虫のこゑ」としてみました。

△~〇廃屋の柘榴たわわに実るなり     美春
【評】たわわといえば「実る」は省略できますね。何の廃屋か気になりますが、とりあえず「廃屋の裏手の柘榴たわわなり」としておきます。

△~〇長き夜や空爆の報またしても     恵子
【評】「長き夜」という季語は秋の夜のゆったりとして満ち足りた気分を本情としていますので、空爆には合わないかもしれません。「空爆のニュースまたもや夜半の秋」くらいでどうでしょう。

〇ガザの子の不安げな眼や秋深し     恵子
【評】大体できていますが、もっとストレートに「ガザの子の不安なまなこ秋深し」としたほうがさらに臨場感が出るかもしれません。

△~〇雨上がり破顔一笑しろむくげ     白き花
【評】「雨上がり」が名詞なのか、動詞の連用形なのかが曖昧な点と、「しろむくげ」という平仮名表記は歳時記に見当たらないという点が気になりました。「雨やんで破顔一笑白木槿」でしょうか。

△~〇行儀よく開かれ干さる鰯雲     白き花
【評】鰯雲が本物の鰯の開き干しのように感じられたのでしょうか。句の形はこれでよしとして、あとはどれだけ共感者を見出だせるかですね。

〇~◎十六夜や小さき木箱のリボン解く     徒歩
【評】何かのおとぎ話のような雰囲気がありますね。ときめきと期待感が高まる句。

〇~◎下書きの鉛筆選ぶ夜長かな     徒歩
【評】生活感の伝わる句です。こんなふうにじっくりと鉛筆を選ぶところもこの季語とマッチしています。

△~〇ペン書きの脚本「サロメ」身に入みし     妙好
【評】「旧川上貞奴邸二葉館で」との前書きがあります。「身に入みし」という用例が歳時記にありません。「身に入みぬ」あるいは「身に入めり」でどうでしょう。しかしこの季語はほとんどが上五に置かれています。「ペン書きのサロメの戯曲秋澄めり」など季語を変えた方がいいかもしれません。

〇桃介の二畳の書斎爽やげり     妙好
【評】こちらも二葉館での吟です。季語が難しいところですね。たしかに「爽やぐ」という季語はありますが、「爽やげり」とすると、なぜか爽やかさがなくなり、暑苦しく感じられてしまいます。「ちちろ虫」など持ってくると絵になるのですが、ご一考ください。

〇やや寒の小走りで行く朝散歩     千代
【評】素直に詠んだ日常句です。このままでも結構ですが、推敲のポイントとしてはいかに動詞を減らすか、ということになります。「やや寒の朝の散歩の小走りに」とする手もありそうです。

〇山盛りのゴ一ヤ煮詰めて作り置き     千代
【評】こちらの句も生活の記録として残していただきたい句です。ゴーヤを煮つめて保存食にするのでしょうか。

△~〇清流を内に秘めたる酔芙蓉     永河
【評】特に切れがありませんので、「清流を内に秘め」ているのは酔芙蓉なのですね。根から水を吸い上げている以上、どの樹木も幹のなかを水が流れているわけですが、永河さんにとって酔芙蓉は格別なのでしょう。「内」と「秘め」が少し重複するので、何とかできるといいのですが、とりあえず「清らかな水裡に満ち酔芙蓉」「身の内に清流のあり酔芙蓉」などと考えてみました。

△~〇ゆるやかに皆穏やかに秋の風     永河
【評】「皆」とはだれなのか、よくわかりませんでした。「秋風のみなゆるやかに穏やかに」という意味でしょうか。それとも中七で切れているのでしょうか。とすれば、皆ゆるやかで穏やかに生きたいものだという思いの句ともとれますね。その場合、やはり「皆」の位置が気になります。

〇勤行や千体仏の堂涼し     万亀子
【評】しっかりと作られている句ですが、「堂」を入れる必要があるかどうか。千体仏ならばお堂であることは自明ですので。「勤行や千体仏のみな涼し」とする手もあるでしょうか。

〇安曇野の白き河原や秋の水     万亀子
【評】安曇野の河原の風景が髣髴としてきますが、「秋の水」だと具体的な水(河の水)のことになってしまいますので、「水の秋」というもっと大きな季語をもってきたほうがいいでしょう。

〇空つぽの蜂の巣かろし秋の風     智代
【評】おおむね結構ですが、空っぽなら軽いのは当然ですので、どこにその蜂の巣があるのか示すと読者により親切な句になります。「空つぽの蜂の巣軒に秋の風」など。

△~〇若武者のおでく馬上に秋祭     智代
【評】菱野のおでく警固祭のことですね。このままでは祭の説明どまりですので、もっと感動のポイントがほしいところです。馬上の「おでく」といえば「梶田甚五郎を模した人形」に限定されるので、「若武者」は不要でしょう。前書に「菱野のおでく警固祭」と記して、たとえば「爽籟や馬上のおでく弾みたる」など、その祭を見た人しか言えないような観察がほしいところです。

△曼珠沙華あか白通し咲にけり     欅坂
【評】「通し」が解釈できませんでした。また「あか白」といえば咲いているに決まっているので、「咲」という語は不要ですね。「赤いろに囲まれ白き曼殊沙華」など、具体描写してほしいと思います。

△子等と旅疲れ戸惑う魔女の谷     欅坂
【評】「魔女の谷」がわかりませんでしたが、遊園地にそのようなスポットがあるのでしょうか。あと、季語がありませんね。たぶんハロウィンを意識されたのだとは思いますが。「戸惑う」もよくわかりませんでしたが、くたびれて途方に暮れた状況でしょうか。「秋ひと日子等と遊べり魔女の谷」など工夫してみてください。

△~〇信濃路でぶだう買ふなり直売所     久美
【評】「信濃路」も「直売所」も場所ですから、くっつけて「信濃路の直売所」とするか、「直売所」は省くかしてほしいと思います。「一抱へ信濃路で買ふ葡萄かな」など、推敲してみてください。

△~〇大きな毬落つるを待つや庭の隅     久美
【評】「毬」だけでは何のことかわかりませんが、毬栗のことなのでしょう。落ちるのを待っているのでは作者も読者もじれったいので、落ちたことにして句作しましょう。「毬栗のころげ落ちたり庭の隅」など。

〇天高しリュックにバッシュ吊り下げて     花子
【評】たぶん学生の句会なら通じると思いますが、一般的に「バッシュ」がすぐわかる人がどれだけいるか心配です(バスケットシューズの略語ですね)。ともかく若々しくて気持ちのよい句です。

〇三つ栗の艶や羚羊来てゐたり     花子
【評】三つ栗とは、一つの毬の中に実が3つ入っている栗のことですね。それを食べにカモシカが来ているのですね。野趣のある句です。句の途中に「艶や」と大きな切れがありますので、下五は終止形でなく「来てゐたる」と連体形にするとよいと思います。

次回は10月15日(火)の掲載となります。前日14日の午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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