かわらじ先生の国際講座~在米日本軍!?

画像なし自民党総裁選も佳境に入ってきました。9名が立候補という大混戦になっています。党員ではない一般国民に投票権はありませんが、当選者が日本の総理大臣に就任する以上、無関心ではいられません。候補者の発言や公約が注目される所以ですが、そのなかで先日、石破茂氏が「アメリカに自衛隊の基地を置くべき」だと発言しているのをネットで見て、いろいろな意味で驚きました。「在日米軍」ならぬ「在米自衛隊」を設けよということなのでしょうか?

石破氏の発言は『文藝春秋』編集部とのインタビューが出所ですが、これは『文藝春秋』2024年10月号(pp.132-137)で読むことができます。ただし、石破氏が公約発表のために開いた記者会見ではこの点について触れていませんので、これは公約ではなく、あくまで世論などの反応をみるための「観測気球」を上げてみた、という意味合いと思われます。とはいえ、こうして活字にもなっているのですから、少し丁寧に見てみましょう。

画像なしはい。そもそもこの発言はいかなる文脈のなかから出てきたのでしょうか?

日米の同盟関係を対等なものに近づけるための一方途として述べられています。まずインタビュアーが「日米地位協定の見直しは?」と尋ねると、石破氏は「地位協定そのものを見直す前に、在日米軍基地を可能な限り共同管理にすべきです。管理権を日本側が待つところまで信頼関係を高めなければならない」と答えています。

画像なしなるほど。米軍基地内に日本側の管理権が及べば、かりに犯罪を起こした米兵が基地に逃げ込んでも、日本側で逮捕・取り調べが行えるようになりますね。

そういうことでしょうね。これに続けて石破氏はこう述べています。「そして、米国領土に自衛隊の基地を置くことも考えるべきです。……ここに一定期間自衛隊が駐留することを想定して、在米日本自衛隊基地協定を結ぶこととすれば、はじめて『同一、対等』の地位協定を結びあうことができる」と。

画像なしつまり、いま在日米軍が享受している地位協定を「在米日本自衛隊」にも適用するとなれば、さすがの米国も協定を見直さざるを得なくなるだろうというわけですね。そんな回りくどいことをしないで、日米政府間で地位協定見直し交渉を始めたほうが話は早いように思いますが、それはともかく、米国は果たして「在米日本自衛隊」を受け入れるのでしょうか?

石破氏によれば、「実際にこの話を米国当局の高官に何度かしてみたことがありますが、概ね好意的に受け止められました」とのことです。それに、米国内に自衛隊を置くといっても、在日米軍基地みたいなものを米国内にいきなり創るというのではなく、「主に訓練のためでいい。陸上自衛隊も、航空自衛隊も、十分な訓練地が確保できていない。きちんと練度を上げていくためには、アメリカの広大な基地での訓練も必要になる」と、石破氏も述べています。

画像なししかし米国内での訓練なら、すでに何年も前から行っていませんか?たとえば平成27年に、米国ワシントン州ヤキマ演習場で米陸軍と陸上自衛隊が行った合同訓練の模様は、陸上自衛隊の広報チャンネルにもアップされています。

たしかにそうですね。米国のテキサス州、ニューメキシコ州の米軍基地で自衛隊がミサイル実射訓練をしている様子も、自衛隊のサイトで公開されています。

ですから石破氏が想定しているのは単なる訓練ではなく、その先のことだと考えられます。

画像なしつまり米軍と米国に拠点を置く自衛隊が、一体となって敵と戦うということでしょうか?

そのとおりです。そして石破氏もその構想を別に隠してはいません。石破氏曰く、現在の日米同盟は「米国の集団的自衛権行使と日本の基地提供が双務となっている」。しかし日本側が「米軍基地の削減を訴えるのであれば、(日本もーー河原地)集団的自衛権の行使を認めて、対称双務条約を目差すべき」だというのです。ですから、自衛隊も日本本土の防衛だけでなく、米国とともに国外でより広範な軍事行動をとれるようにしなくてはならないということです。

画像なしわが国の集団的自衛権の行使に関しては、2015年に制定された「平和安全法制」によって認められていますが、これだけではまだ限定的で不十分だと石破氏はみているのでしょうか?

そうです。ですからやはり憲法第9条の改正は必須だということにつながってくるのです。そしてこれは石破氏だけでなく、自民党全体の公約です。自民党は「憲法に自衛隊明記」をスローガンに掲げていますが、この表現は国民をミスリード(誤誘導)させる危うさがあります。自衛隊はいまの憲法下でもコンセンサスが得られていますから、わざわざ明記するまでもありません。ことの本質は「自衛隊」という言葉の明記ではありません。自衛隊という組織を「国防軍」という名称にして明記することなのです。

ただ、憲法に「国防軍」明記というと護憲の世論の反発を招くおそれがあるため、「自衛隊」という言葉でいわばカモフラージュしているわけです。国民の信を問うのであれば、正々堂々と「国防軍と明記」と言ってほしいと思います。実際、自民党が発表している「日本国憲法改正草案(全文)」のなかでは、きちんと国防軍と謳っています。

画像なし要するに、憲法9条のなかの「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」を削除し、軍隊の保持を明記したうえで、集団的自衛権の保有に関する曖昧さを払拭し、日本国防軍として米国に駐留させる、というのが石破氏の論理上の帰結になるでしょうか?

そういうことになります。ですから石破氏が使っている「在米日本自衛隊」は不正確で(現状としてはそう言わざるを得ないのでしょうが)、正しくは「在米日本軍」と呼ぶべきです。

画像なし問題は本当に米国が外国の軍隊を自国領に駐留させるかですね。米国ほど自立心の強い国家が、日本の軍隊であれ、外国軍部隊を自国内に常駐させるとは到底思えないのですが、どうでしょう?

将来の日本国軍部隊が、米軍の傘下に入るという形であれば、あり得る話です。今でも自衛隊は国連PKOに参加していますが、その際は自衛官も国連専用のヘルメットをかぶり、国連の指揮下に入ります。同様に、日本の軍部隊も米国に駐留している間は、米軍の指揮下に入ります。米軍を補うために、日本の軍部隊が米国にレンタルされるわけです。すなわち「日本国防軍」と名を変えた自衛隊の一部が、米軍の下部組織に組み込まれるという事態が想像され、石破氏が論じるような対等な関係とは正反対の方向に傾斜する可能性がすこぶる高いとわたしは懸念します。

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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。 同大学院修士課程修了。 専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。 俳人協会会員でもある。 俳句誌「伊吹嶺」主宰


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