東京大学の学費値上げ間近

カナリア倶楽部でも何度か紹介してきた東京大学の学費の値上げが発表されました。


最終決定はまだですが、東京大学内外から反対の声も上がっています。


東大以外の国立大学や私立大学の学生からも反対意見が表明されています。


この件に関連して、3点書きたいと思います。

1.反対している学生は自分たちのことだけを考えているのではない
私は学生時代に大学の自治寮に住んでいました。自治寮なので学生が寮運営をしていました。入学したばかりの頃に4年生の先輩から聞いた言葉で強く印象に残っているものがあります。
「大学から寮費の値上げを求められたりしたとき、『それくらいの値上げなら払えるから良いか』と思うかもしれないけれども。私たちの後輩で、私たちよりももっと経済的に厳しい人が入ってきたときのことをしっかりと考えて、大学と交渉しないといけない」
何年か前に社会学者の上野千鶴子さんが、東大の入学式で、「東大に入学できたと言うだけであなたたちは恵まれている」という発言をして話題になりました。もちろん東大にも苦学生はいます。差別を受けがちなマイノリティの人たちもいます。けれども、東京大学に入学できたということは、生まれつきの頭の良さがあったり、低所得家庭であったとしても親が学問に理解があったりするなど、恵まれていることがある。そのことを自覚しないといけない。
今声を上げている学生達が、上野さんの祝辞を念頭に置いているかどうかは知りませんが、彼女・彼らは自分達の後に東京大学をめざす後輩のため、また(東大に続けて学費値上げをするであろう)全国の大学の学生のために努力しているのだと思います。

2.確認書の存在
ネット上には「学生に意思決定に参加する資格はない」という意見が散見されますが、そんなことはありません。学校でも児童会や生徒会があり、学校に対して意見を言うことができますし、学生も大学に対して意見を言うことができます。
また東京大学には、1969年に大学側と学生代表との間で結ばれた、10項目26か条の「確認書」があります。この文書で大学は、学生や院生も権利を持って大学の自治に参加する「全構成員自治」の原則が確認されています。91%の学生が反対している学費値上げを強行する大学の姿勢は、確認書違反と言わざるを得ないかと思います。

3.物価高騰との関係
物価が高騰しているのだから仕方ないという意見も散見されます。しかし国立大学は、バブル崩壊以降のデフレが続く中でも、学費を値上げし続けていたのです。平成17年以降は一部の国立大学を除いて据え置かれてきましたが、平成の前半の間の値上げ分を値下げしてからでないと、今般の物価上昇を言い訳にはできないと考えます。


こちらの中村先生の見解が参考になると思います。



さて、東大が値上げを発表したその日、OECDは日本の教育への公費支出の少なさを指摘する報告書を出しています。東京大学もその他の大学も、学費を値上げして学生にしわ寄せをするのではなく、教育への公費支出の拡大を要求するべきであろうと思います。


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西垣順子<大阪公立大学 高等教育研究開発センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など


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