「カナリア俳壇」106

台風10号もようやく去ってくれたようですが、皆様お変わりございませんか。
そろそろ新涼の候となってほしいところですね。

△~〇合歓の花吾は昼寝す君の横     作好
【評】ロマンチックな句ですね。三段切れである点と、季重なりである点が気になります。とりあえず「まどろめる我が横に君合歓の花」としておきます。

〇風鈴の音無く雨の農休み     作好
【評】切れがないため、散文の切れ端のように感じられます。「鳴り止める風鈴雨の農休み」としてみました。「風鈴」で切れが入ります。

〇~◎被爆樹のこと語り継ぐ広島忌     瞳
【評】このままでも十分にけっこうです。ただ、ちょっと語順を変えて「語り継ぐ被曝樹のこと広島忌」としてみたくなりました。

△~〇村民より多き案山子に名前あり     瞳
【評】村人より案山子の数が多いことと、それぞれの案山子に名前がついていることの2つを同時に575に収めるのは至難です。「農家ごと名札つけたる案山子かな」「一村の案山子どれにも名が縫はれ」など、もう少し工夫してみてください。

△~〇雲間より湯槽に届く今日の月     美春
【評】「雲間」(空)、「湯槽」(地上)、「今日の月」(空)と視線が上下を行ったり来たりするのはよくありません。雲間と月はワンセットにしましょう。「雲間より差しこむ月や仕舞風呂」などご推敲ください。

△~〇山の径炎暑忘るる沢音かな     美春
【評】俳句の主人公はあくまでも季語であるという意識をもつことが大事です。この句は「沢音」が感動の焦点に来ています。そして、沢音といえば涼しさを本意とします。これでは「炎暑」がかすんでしまいます。もう少し炎暑の存在感を前面に出しましょう。「沢音に薄るる炎暑山の径」くらいでどうでしょう。

◎秋はじめ靴お揃ひの伯母夫妻     翠
【評】すなおな作りで大変結構です。お揃いの靴が涼し気で季語ともぴったりです。

〇~◎張り強き浴衣纏ひて勘九郎     翠
【評】浴衣の生地にまで目がゆくとは観察が鋭い。歌舞伎役者だけあって、上質の浴衣を着ておられるのでしょう。中七に切れを入れ「浴衣纏へり」でどうでしょう。

〇~◎湯の町の橋の暮れゆく厄日かな     徒歩
【評】穏やかな厄日だったのでしょう。城崎あたりをイメージしました。橋は複数あって、それらが順次暮れてゆくと解釈すると一段と趣が増します。「湯の町の橋暮れてゆく厄日かな」とどちらがいいでしょう。

◎一枚の稿に腕組み夜半の秋     徒歩
【評】実直な作者の姿が髣髴としてきます。投句に添えられたメールで、「腕組み」が動詞ととられないか気にしておられましたが、わたしは迷いなく名詞と受け止めました。

〇花火待つ遊覧船や諏訪の湖     万亀子
【評】「遊覧船や」とすると、感動の中心が遊覧船そのものになってしまいます。また「諏訪の湖」という言い方にも違和感をおぼえました。とりあえず「花火待つ諏訪湖に浮かぶ船の中」としてみました。もっといい表現が見つかりそうです。

〇大花火しだれしだれて湖面まで     万亀子
【評】スケールの大きい、しっかりとした写生句です。ただ、わたしの俳句の師である栗田やすし先生に「大花火しだれて海にとどきけり」という句がありますので、類句にならないか迷うところです。

△~〇ス一パ一の新米何処に行きにけり     千代
【評】売り切れなのは古米だと思うのですが、それはともかく、「何処に行きにけり」と疑問形にするより、即物具象的に「スーパーの新米けふも売切れよ」としたほうが素直かもしれません。

△~〇秋風が首肌かすめ襟たてる     千代
【評】襟を立てたとは、冷たい風だったのでしょうか。もう少しすっきりとさせ、「吹き募る秋風に襟立てにけり」としてみました。

〇カウベルの風に乗り来る大花野     妙好
【評】概ね結構ですが、もう少し正確に描写すると「カウベルの音風に乗り大花野」でしょうか。

◎逝く夏やきのふと違ふ空の色     妙好
【評】鋭敏な感覚の句で、大変結構と思います。同じ青空でも、確かに何かが違いますよね。

〇寒蝉鳴「万謝」も入れて旅支度     智代
【評】「寒蟬や『萬謝』も入れて旅仕度」でどうでしょう。著者に失礼がないよう句集名は正確に!あと、書名は必ず二重カッコにします。

△~〇ガレのやうランプシェードに夕蜻蛉     智代
【評】この夕蜻蛉は、ランプシェードに描かれた絵でしょうか。とすれば、「ランプシェードの夕蜻蛉」のほうがよさそうです。ただし、絵ですと季語としては弱い気がします。

〇~◎颱風の沈思してゐる海の上     永河
【評】まさに今回の台風10号はこんな具合でした。古代人もこのように台風の意志を感じたはずですが、この句は現代的な表現が魅力です。

△~〇百日草母に手向けし三回忌     永河
【評】上五と下五がともに名詞となる形は極力避けるというのが俳句のセオリーの一つです。「三回忌」は前書とし、たとえば「声かけて母に手向けし百日草」「百日草母に手向けし安堵かな」など、いろいろ工夫してみてください。

〇荒雨の上がりちちろの声澄めり     恵子
【評】「荒雨」は「あらあめ」と読むのでしょうか。「秋澄む」という季語がありますので、「澄めり」だと季重なりの気味がありますから、避けたいところです。とりあえず「暴風雨去りてちちろの声高し」としておきますが、もう少し推敲できそうな気がします。

〇朝明けの薄紅の空律の風     恵子
【評】「律の風」とはおもしろい季語をもってきましたね。秋の物悲しい風のこと。わたしも使いたいと思いながら、なかなか使いこなせずにいます。このままでも結構ですが、もう少し調べに張りをもたせ、「朝明けの空は薄紅律の風」とする手もありそうです。

◎雌くれば雄動き出す繭の蝶     椛子
【評】繭の蝶とは蚕蛾の別名ですね。蚕蛾より優雅な感じがします。こんな虫でも反応は人間と同じなのですね。しみじみとします。

〇蚊帳くぐるトトロみたいと口々に     椛子
【評】子供たちが蚊帳をくぐっている場面でしょうか。その中は「トトロの家みたい」ではないかと思うのですがいかがでしょう。それとも蚊帳をくぐるとトトロになった気分、ということかもしれませんね。別の句になりますが、「みなトトロの眷属蚊帳に入りたれば」と考えてみました。

〇尾頭を残し塩焼き痩せさんま     久美
【評】あまり脂の乗っていない痩せ秋刀魚でも、美味しく食したわけですね。秋刀魚も本望でしょう。素直な句で結構です。

△~〇黄緑の揚羽幼虫山椒食ぶ     久美
【評】きっと久美さんにとっては大きな発見だったのでしょう。しかし揚羽の幼虫が黄緑であることも、山椒の葉を好んで食べることも常識の範囲内ですので、意外性はありません。「揚羽幼虫」という言葉が舌足らずですので、何とかしましょう…といいながら良い表現が思いつきません。とりあえず「山椒食べころころ太り揚羽の子」としておきます。

△~〇暮れなずむ河原でビール手暗がり     白き花
【評】「暮れなずむ」が春を思わせる表現ですし、「手暗がり」が取ってつけたようです。別の句になってしまいますが「黄昏の河原でひそとビール飲む」としてみました。

△~〇鶏頭や熾る(おこる)が如く燃えてをる     白き花
【評】鶏頭が燃えているようだという言い方は割とよくあって、あまり新味はありません。新しさを求めるなら「鶏頭の熾火の如く倒れをり」など、何か工夫したいところです。

△~〇青鷺や大雨のなか佇めり     欅坂
【評】「青鷺」と「佇めり」は主語と述語の関係ですから「や」では切れません。「青鷺が大雨のなか佇めり」となります。「大雨のなか青鷺の身じろがず」など、もう少し工夫したい気もします。

△~〇サルスベリ実を受け流す車上かな     欅坂
【評】今一つ「受け流す」のニュアンスがつかめませんでした。また、さるすべりは和語ですので、平仮名か漢字で表記しましょう。片仮名書きでは植物図鑑みたいになってしまいます。「車上へと実をこぼしけり百日紅」としておきます。

次回は9月24日(火)の掲載となります。前日23日の午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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