「模索舎」がある訳

『国家悪』『毎日あほうだんす』『極限の表現 死刑囚が描く』・・・・こんなタイトルが並ぶ模索舎は、『評伝 原敬』を座右の書とする経産相が旗を振る「街の本屋さん振興プロジェクトチーム」の支援とかと、まったく無縁だ。

新宿・模索舎。
ミニコミ・自主流通出版物取扱書店。
大小問わず、日本中の書店が次々倒産し数を減らす中、50年以上も新宿御苑近くの地価高そうなところにあり続ける模索舎。
ベストセラー本とは無縁の、私が作る「車掌」のような、いかにも売れなさそうな出版物でも置いてくれる本屋さんが、つぶれずにずっとここにあってくれる訳。

模索舎店内は「ここにしかないもの」で溢れる宝の山だ。(模索舎・榎本氏提供)

そんなことを聞きに模索舎へ。すると
「「置いてくれる」って言うよりも、「買う人がいる」、ていうことでしょ」
と、舎員の榎本氏はすぐさま私の表現を否定した。
驚いてしまった。
今まで、30年以上もミニコミを作りお店に置いてもらい続けて私はずっと、車掌を置く店を「車掌を置いてくれる店」と思っていたから。「置いてくれる寛大な店」と「置いてくれない冷たい店」があると思っていたから。
そうではなかった。
「長い付き合いっていうこともあるけど、買っていく人がいるから置いている。それがなかったらせいぜい2,3部しか置きませんよ」と榎本氏。
私はまったく自分本位で、持ちこまれた側の、本屋の立場で考えることがなかったのだ。
模索舎は、車掌を「買う人がいる」お店なのだ。

模索舎の経営はとてもとても厳しいそうだ。
物価高やネット普及の影響で売り上げが落ち、3人体制の運営が2012年から2人体制に。
「ずっと大変。いつつぶれてもおかしくない」模索舎を、週6で入る榎本氏が「何とか維持させている」状況らしい。
「家賃高いしね。社会保険も払ってるわけですよ。自分もご飯食わなきゃいけないから、人件費も必要で。」

収入となるのは「売り上げの3割」。そこにはどんな魔法もない。
売り上げがなければ、模索舎とてつぶれる。だから「買う人がいる」ことが何よりも重要。
今、模索舎がつぶれいていないのは、模索舎が「買う人がいる」お店だから。
そして「買う人がいる」お店であるのは、あり続けるのは、榎本氏の努力と手腕によるものだった。
私は仕事がいやになって「いっそ辞めて、模索舎とかで働きたいな」と思ったことが何度かある。とんでもなかった。私が舎員になっていたら、この場所はすでに更地だろう。

模索舎の顔であり骨である舎員・榎本さん。「車掌」については「はっきり言って俺はよくわからない」とはっきり言った。

模索舎が模索舎であり続けること。
それはまず、模索舎でしか買えない出版物があること。
模索舎に行けばきっとあるだろう本があること。
そしてまた、模索舎に行けば、きっとほしいものに出会えるだろうと思われるお店であること。
昔から扱う、新左翼の社会運動のパンフとか機関紙。雑多な直接納品のミニコミ類。
それに加え榎本氏は、取引している出版社を回ったり、トランスビューという小さな出版社の流通を使ったり、文学フリマに出向いたり、そんなことをして自身で目利きして、棚に並べる商品を仕入れてもいたのだ。

話している途中で、米国在住らしき二人連れが、大量に本を買っていった。
「こういったお客さんに支えられてもいます」と榎本氏。
でも、「こういったお客さん」は、模索舎を支えるためだけに来ているのではない。模索舎でしか買えない本があるから、模索舎に来れば買いたい本がいろいろ見つかるから、模索舎に来る。

創業1970年。まもなく有志の手により『模索舎50年史』が出版社「ころから」より刊行される。

個人商店を支えたい一心で、魚も、肉も、お豆腐も、高くても頑張って小さなお店で買うようにしている私が、こと本に限っては、図書館利用ばかりで「買う」という行為をしていなかった。しまった、と思った。
心を入れ替え、今日から早速、と模索舎の棚に向かうと、すぐに「買いたい」本が目についた。それからさらに探すと、ずいぶん昔に読みたいと思い、読まずにいた本が棚にあった。
さらに探すと、割と最近書評で見かけて近々読もうと思っていた本が棚にあった。
タイトルと内容から読みたくなった本。
昔読もうと思ってた本。
最近読もうと思った本。
3つ並べて、どれを買おうかと考えた。
どれも買いたい。思案の挙句、全部買った。
こんな小さいのに模索舎の棚は広く、深い。海のようだ。

2000年に静岡から上京し、以来、大学、勤め人時代を通して模索舎で本を「買う」客だった榎本氏が、「エノちゃんどう?」と誘われて2009年に舎員になり、「売る」側になった。そして今、経営が厳しくなる中で、「オレがやるしかない」って気持ちで貧乏暮らししながら模索舎の顔として、さまざまな工夫をしながら努力をしながら、店を支える。
「大変なことしかない」とぼやきつつ、客や納品者と楽しそうにおしゃべりする榎本氏。みんなここに来ると長居していく。私も長居しながらこうやって観察してみると、模索舎は閉店してしまったお店とは違うことがいっぱいあった。そしてそれが全部この店の魅力だ。

納品者ー店ー買う人の3者が支え合うことで成り立つ模索舎。いつまでもあり続けてほしいこの模索舎を、これからは「買う」ためにも訪れたい。
そして車掌が「買われる」ための努力も、また必要。
車掌27号かるた号。世界に一つしかない、読み、眺め、遊ぶ、とてもとても楽しい号だ。
ぜひ模索舎で買ってくだされ!

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塔島ひろみ<詩人・ミニコミ誌「車掌」編集長>
『ユリイカ』1984年度新鋭詩人。1987年ミニコミ「車掌」創刊。編集長として現在も発行を続ける。著書に『楽しい〔つづり方〕教室』(出版研)『鈴木の人』(洋泉社)など。東京大学大学院経済学研究科にて非常勤で事務職を務める。
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車掌27号第4回かるた大(小)会、9月15日に開催します。車掌27号はかるた大(小)会で遊び終わった号から、ひと箱ずつ、ゆっくり商品になっていきます。


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