梅雨が明けたと思ったらこの猛暑。なかなか気持ちが俳句に向きませんね。先日、大阪の俳句仲間と吟行をすることになっていたのですが、急遽、高槻阪急スクエア(阪急百貨店)の中を1時間半ほど自由に歩いて回り、出句する形に変えました。食品売り場には季節の野菜なども多く、吟行場所としてこれも悪くないなと思いました。
○銃を置けホモサピエンス夏銀河 作好
【評】異星の高等生命体からの人類への呼びかけのようですね。「夏銀河」の雄大さが魅力です。
○微風は汗の肌着を通ほり抜け 作好
【評】微風(そよかぜ)の気持ちよさが実感できます。「とほりぬけ」または「通りぬけ」と表記しましょう。
△~○二人づれ白靴買て馬込宿 美春
【評】三段切れになっているのが惜しまれます。「二人して白靴買うて馬込宿」「白靴の二人の旅や馬込宿」など少し推敲してみてください。
○池の辺四阿映ゆる夏燈 美春
【評】上五が字足らずでは?「池の辺(べ)の」とすれば結構と思います。
○龍神を祀る御堂に蟻の列 瞳
【評】「御堂に」とすると御堂のどこに蟻の列があるのか気になりますので、「御堂へ」としてはいかがでしょう。
△~〇青鷺の見張るかに立つ竹生島 瞳
【評】俳句は「断定の詩」と言われます。見張っていると感じたら、主観でそう断定してしまえば結構です。「青鷺の見張りてゐたり竹生島」など。
〇梅雨寒や犬の棺は段ボール 徒歩
【評】感情を抑えて即物具象に徹した句ですね。「は」がやや強い気がするので、別案があればと思いますが難しいですね。「犬納めたる段ボール」では通じないでしょうか。
〇匂ふまで顔を寄せたり梅雨菌 徒歩
【評】俳人たる者、やはり匂いは確かめたくなりますよね。俳諧味のある作品です。どんな匂いだったかを詠むとすれば「色ほどの匂ひはあらず梅雨菌」でしょうか。尤も梅雨菌は秋の茸と違い地味な色ですね。
◎猛暑日や胸の内でも腕まくり 白き花
【評】本当に胸の内で腕まくりしている映像が浮かんできて、シュールで面白い句です。
△~〇貫かる打ち上げ花火にズンと来て 白き花
【評】ユニークな感性の句ですが、中七の字余りは避けなくてはいけません。「ずんと来て我貫けり揚花火」と考えてみました。
◎義士祀る宮に白鷺鳴き交はす 恵子
【評】まるで白鷺が義士の化身のようですね。しっかりとした写生句です。
〇水替へて目高の数を確かむる 恵子
【評】水を替えるときの習慣になっているのでしょうね。確かめた結果、増えたのか減ったのか知りたくなりました。「また目高増えたる水を替へにけり」とする手もあるでしょうか。
〇青胡桃ぽつりともらす子の本音 妙好
【評】面白い取り合わせの句です。上五と下五がともに名詞という形はできるだけ避けたいところです。「子がぼそと洩らす本音や青胡桃」など。
〇夕菅や鄙にぽつりと家灯り 妙好
【評】鄙びた村の夕景が見えてきます。「鄙」と「家」を一つにまとめて「夕菅やぽつりと灯す鄙の家」とするのも一法でしょうか。
△~〇焼き上がる長焼き香る列並ぶ 千代
【評】俳句をシェープアップするためには、できるだけ動詞を減らしましょう。「焼き上がる長焼の前長き列」など。
△~〇全快の友に送りし紫陽花鉢 千代
【評】下五が字余りですね(「あじさいばち」だと六音)。「全快の友に四葩の鉢送る」など。
◎祇園会や老女きりりと帯締めて 万亀子
【評】京都の町家の人々にとって祇園祭は格別の重みがあるようです。「きりりと帯締めて」にもその気迫が感じられます。
〇~◎油照り桟敷の席へ遠囃子 万亀子
【評】山鉾巡行を見物したのですね。しっかりとした写生句ですが、「油照り」だとやや息苦しいので、爽快さを出すならば、上五を「夏空や」とする手もありそうです。
〇湯上りにひとり見る空月涼し 永河
【評】湯上りの涼しさが伝わってきます。「見る」も「空」も省略できますので、場所をもっと具体化するのも一法と思います。一例ですが「湯上りの縁にひとりや月涼し」など。
〇蝉時雨天の磐戸は開いてゐる 永河
【評】あまりの蝉の騒がしさに、天照大神がまた天の岩戸を閉じてしまうぞ、と言っているのでしょうか。とすれば、なかなか俳諧味のある句です。
△~〇梅雨明けに一人静かにジャズを聴く 欅坂
【評】実感に即した句だと思いますが、部屋のなかで一人静かにジャズを聴くとすれば、上五は「梅雨籠り」のほうが合いそうな気もします。
〇梅雨の葬六文銭は紙作り 欅坂
【評】欅坂さんより、会津若松の葬儀では「冥土の通行手形として、紙の六文銭を、棺に入れ」るのだと教えていただきました。風土色豊かな作品です。何か前書きを付けて下されば結構でしょう。
〇大揚羽水満々の花筒に 智代
【評】「水満々の」という表現にやや難を感じましたので、「花筒に水なみなみと揚羽来る」くらいでいかがでしょう。
△~〇黒き眼のとうろう仮面ライダー似 智代
【評】「夜の螳螂」とのことです。仮面ライダーが昆虫(バッタ等)をモデルにしていることはよく知られていますので、カマキリが仮面ライダーの顔に似ているのも当然で、あまり意外性はありません。なお「螳螂」は平仮名で「たうらう」と書きます。
〇初夏や夫と見上ぐる白帝城 久美
【評】きっと天気も良かったことでしょう。ご夫婦で行かれた小旅行の記念の一句ですね。
△~〇子ら誘ひ土用鰻のま近かなり 久美
【評】「ま近」とは鰻を食べる日が間近に迫ってきたということでしょうか。「子らと行く土用鰻の日のまぢか」としてみましたが、これでもまだ言葉足らずかも……。
◎巣立ち鳥次々空の高みへと 織美
【評】しっかりと視線を上に向けた句で、作者の心の高ぶりがよく伝わってきました。
〇~◎亡き母の無性に恋し百合の花 織美
【評】このような全面的な感情の表出は、俳句よりも短歌が得意とするところですが、季語も美しく、素直な詠みぶりで、大いに共感して読ませていただきました。
〇柳絮飛ぶごつた返しの河童橋 小夏
【評】上高地の情景ですね。柳絮も、観光客も、あふれるほどだったのでしょう。
〇木道に鳴らす熊ベル風涼し 小夏
【評】「熊ベル」の音も涼やかで、作者の伸び伸びとした気持ちが伝わってきます。ただし今年は例年になく熊による被害が多いそうですから、十分に気をつけてください。
次回は8月13日(火)の掲載となります。前日12日の午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
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