東京大学の学費値上げ、正式発表は延期か?

東京大学の学費値上げ問題に関連した記事を今回も書きます。値上げ反対の声が大きくなってきたためか、正式決定の時期が先送りになったようです。


大学院入試要項の発表に合わせた値上げ決定はできなくなった(=大学院授業料は来年度は据え置かれる)が、秋ころをめどに正式決定して、学士課程の入試要項発表には間に合わせたいと考えているのかもしれません。
ここまで頑張ってきた学生たちのグループは、これを1つの勝利ととらえつつ、引き続き署名活動などを行っています。


私のところにも賛同署名の依頼が来たので、次のことを書きました。

どの大学であろうと授業料の値上げは、国際人権規約の高等教育の漸進的無償化に反することです。政府は国立、公立、私立を問わずに交付金・補助金を拡充して、学費値下げに努めるべきです。その上で、次の2点を申し添えたいと思います。
集中して勉強をする人のイラスト(女性)

1つは、値上げとセットで添えられる「経済的支援」についてです。奨学金等を充実させると、言い訳のように添えられますが、どの程度のものが用意されているのか不明である上に、低所得世帯の子女や親に頼れない青年にとって、それは十分なものではないのです。
自分自身もそうでしたが、経済的支援を受けながら学ぶ場合、若い人たちの成長の糧になるような様々な挑戦や冒険がやりづらくなります。無事に支援を受け続けて借りたお金を返すためには、確実に成績が取れること、確実に学位が取れること、確実に就職ができることが何より優先です。広い世界を見ることよりも、社会課題の解決に挑むことよりも、挑戦的な研究をすることよりも、「確実な成果」を積むことができる選択を、日々していくしかないのです。現在よりも多くの学生がこのような状況に追い込まれることは、当人にとっても社会全体にとっても大きな損失です。ビルキャンパスのイラスト(School)
2つめは、「東京大学の学費よりも、地方大学や低所得世帯の子女の進学が多い高等教育機関の学費軽減を優先するべき」という主張についてです。東京大学に進学できる学生は、経済的に恵まれていることが多いと言われます。経済的に恵まれていない場合でも、子どもが学ぶことに対して親が理解しているなど、さまざまに恵まれていることが多いわけです。そしてそれらに恵まれていない人たちは、もっと厳しい条件下で学んだり働いたりしているのだから、そのことを何とかするべきという考え方です。
私自身も地方出身ですし、私の両親が(お金はなくとも)学問に理解があったのも事実で、こういう意見は重要だと思っています。しかし実際のところ、東京大学の学費値上げを進めようとしている勢力は、地方大学の環境改善や大学以外の高等教育機関で学ぶ学生への保障など何も考えていないわけです。そのことを放置したままで「東大よりも地方」「東大よりも厳しい状況の大学・学校」という理由で東大の学費値上げを容認することは、結果としてすべての青年の学ぶ権利が奪われていく状況を作り出すのではないかと危惧します。
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西垣順子<大阪公立大学 高等教育研究開発センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など


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