まだ梅雨空は広がっていますが、いよいよ暑い7月に入りました。お互い健康に留意し、本格的な夏に備えましょう。
○万緑やリュック背負う人背負わぬ人 由美
【評】素直な写生句でけっこうです。「背負(しょ)う人」と「背負(しょ)わぬ人」の対句表現もリズミカルですね。歴史的仮名遣いを使えば「背負ふ人」「背負はぬ人」となります。
○草田男のお軸拝見風炉点前 由美
【評】茶室に草田男の句とはめずらしい。万緑の句でしょうか。そのへんを具体的にするなら「草田男の万緑の軸風炉点前」とするのも一案でしょうか。
△弟の里箕面川床通りすぐ 蓮花
【評】「おとのさと/みのおかわゆか/とおりすぐ」と読むのですね。通り過ぎるだけでは味気ないので、もう少し表情のある句にしたいところです。一例として「今宵より箕面川床弟の里」など。
○~◎夏風や砂丘歩めど海遠し 蓮花
【評】夏の風は熱風のようなのかもしれませんね。鳥取砂丘でしょうか。広漠たる景が思い浮かびました。
○雨降りて跳ね音立てる代田かな 作好
【評】堅実な写生句です。動詞が多く、やや散文的ですので、「雨粒の跳ね音高き代田かな」などとする手もありそうです。
○空豆の畑みたくて早起きす 作好
【評】素直な生活句でけっこうでしょう。「見たくて」と漢字を使った方が読み手に伝わりやすいように思います。
△~○鳥に残す高き樹上の甘き枇杷 瞳
【評】上五の字余りが気になります。また、「樹上」と言えば「高き」は省略できるように思います。「鳥のため樹上の甘き枇杷残す」くらいでいかがでしょう。
△蓮の葉や丸き雫の陽を弾く 瞳
【評】まず、「雫」とは落ちてくる水の粒(水滴)のことですので、丸くはなりません(流線型かドロップ形になります)。これは蓮の葉にとどまっている水玉のことでしょうね。「や」で切ってしまうのも問題です。「蓮の葉の雨後の水玉陽を弾く」としてみました。
○~◎鼻歌が出るとき君は夏の蝶 ゆき
【評】森山加代子の大ヒット曲「白い蝶のサンバ」を思い出しました。「あなたに抱かれてわたしは蝶になる」という一節が印象的でした。この句は男性の側から詠んでいるのでしょうね。鼻歌がどこかユーモラス。幸せな気分にしてくれる句です。
○~◎窯小屋に鼻歌聞こゆ初夏の風 ゆき
【評】伸び伸びとして明朗な句です。季語もぴったり。「鼻歌の洩るる窯小屋初夏の風」と考えてみましたが、どちらがいいでしょう。
○黒猫の横切る路地に西日かな 美春
【評】西日は路地だけに差しているわけでないので、「路地に」の「に」を取りたいところです。「黒猫の横切る路地や西日中」としてみました。
◎ビール注ぐ子の手大きく見ゆるなり 美春
【評】手をクローズアップさせた大変ユニークな作品です。子の成長に驚いているのかもしれませんね。
◎蟻ひそと捩花の階上りゆく 妙好
【評】しんと静まりかえった昼下がりを思わせます。「捩花の階」が詩的です。「捩花」の句としていただきました。
◎胸元に香水ひそと同窓会 妙好
【評】「胸元に」という具体描写が大変けっこうです。作者の心のときめきが伝わってきます。当初「ほのと」でもいいかなと思いましたが、「ひそと」のほうが意味深ですね。
△はためける新茶の幟風薫る 恵子
【評】まず「新茶」と「風薫る」が季重なりです。また、「はためける」とありますから「風」は言わずもがなですね。添削ではありませんが、一つの作例として「はためける新茶の幟母の里」と考えてみました。
○厨窓ひととき染むる梅雨夕焼 恵子
【評】生活感のある素直な写生句でけっこうです。
○暑かろう辻の地蔵に水供ふ 織美
【評】気持ちのこもった句です。上五、「暑かろと」でもいいかもしれません。
○~◎黒南風や野良の仕事の早仕舞い 織美
【評】生活に根ざした着実な写生句です。「早仕舞ひ」と表記しましょう。
○「けふ夏至」とトルコブルーの文字で記す 徒歩
【評】万年筆のインクですね。括弧はなくてもいいと思います。やや散文的ですので切れを入れたいところですが、難しいですね。一応「けふ夏至と記すやトルコブルーもて」と考えてみました。ご参考にしてください。
○葭切や宿のタオルを首に掛け 徒歩
【評】葭切の声が聞こえる鄙びた宿での一コマでしょうか。このままでもけっこうですが、下五を終止形にする手もありそうです。「行々子宿のタオルを首に掛く」など。あるいは季語を下五にして「肩に置く湯宿のタオル葭雀」等とすることもできますね。
◎落ちてゐる影を伝ふや炎天下 白き花
【評】「影」を「落ちてゐる」と表現したところが独創的で、作者の心象風景を思わせる不思議な感覚の句です。
△火の玉のやうな夕焼け烏瓜 白き花
【評】「夕焼け」を「玉」とするのは無理があるように思います。また、「夕焼け」を「火」にたとえるのも月並な感じです。「夕焼け」は夏の季語、「烏瓜」は秋の季語ですので、どちらかをカットして作り直してほしいと思います。
◎姿見にむすぶ麻帯とみかうみ 智代
【評】「姿見」や「とみかうみ」といった古風な表現を用いた効果でしょう、しっとりとして典雅な雰囲気をかもす句となりました。
◎幼子の洗ひ髪の香夜風立つ 智代
【評】つややかな言葉を連ね、古典に通じる美しい作品に仕上がっています。「夜」の景が黒髪をいっそう際立たせていますね。
△~○泥まみれ最後の夏や孫野球 千代
【評】三段切れになっているのが惜しまれます。とりあえず「泥まみれ球児の孫の夏終る」としてみました。
△~○土砂降り頭押さえて駆ける児ら 千代
【評】よく情景が見えてきます。季語がありませんので、上五は「夕立や」でいかがでしょう。「押さへて」と表記しましょう。「駆ける」も文語にするなら「駆くる」となります。「夕立や頭押さへて駆くる児ら」。
△~○荒梅雨や読経の如く包まるる 永河
【評】上五を「や」で切ってしまうと、「読経の如く」が何のたとえか分からなくなってしまいます。「荒梅雨に読経の如く包まるる」でしょうか。「読経のごと荒梅雨に囲まるる」とする手もありそうです(その場合は「どっきょう」と読みます)。
◎さはさはと程よき間合ひ植田風 永河
【評】「程よき間合ひ」と捉えたところがユニーク。鋭敏な感覚の句です。
◎藁草履ならぶ神殿御田祭 万亀子
【評】「藁草履ならぶ」と具体的に表現し、しっかりと情景が見えてくる作品です。歴史のある御田祭なのでしょうね。
◎白足袋で早乙女ずぼと神の田へ 万亀子
【評】こちらも描写が具体的で大変けっこうです。「ずぼと」がどこかユーモラスですね。
○梅雨に逝く手甲脚絆に身を包み 欅坂
【評】柩におさめられた方の描写ですね。「手甲脚絆」という具体描写が胸に迫ってくるようです。季語にも情念を感じます。
△~○梅雨の葬六文銭と頭陀袋 欅坂
【評】こちらも上の句と同じ場面でしょうか。六文銭ということは現代ではなく江戸時代のことでしょうか。そうなると、ちょっと状況が分からなくなってしまいました。
○青嵐八冠の幕ひとつ巻く なつ代
【評】「藤井七冠」と前書があります。このあいだまで八冠だったので、八本の祝幕が垂らしてあったのを、一本巻き上げてしまった場面とか。地元以外では見られない興味深い情景です。季語「青嵐」という爽やかな季語をもってきたところがいいですね。
○はんざきの墨流しめく脱皮殻 なつ代
【評】はんざきの脱皮を描いたユニークな句。「墨流しめく」がリアルですね。語順を変えて「墨流しめくはんざきの脱皮殻」とするのと、原句とどちらがいいでしょう。わたしも迷うところです。
△孫たちのラーケーションやちらし鮨 久美
【評】「ラーケーション」という言葉が目新しいと言えば言えるのですが、それで俳句の三分の一以上を使ってしまうのはもったいない気がします。孫たちがちらし鮨を作っている場面を生き生きと写生してほしいと思います。
△~○夏の宵旨き酢を買ひ胡瓜揉み 久美
【評】日常生活の素直なスケッチで、とりあえずけっこうでしょう。ただし「夏の宵」も「胡瓜」も夏の季語ですので、季重なりであることは承知しておいてください。あと、「旨き」と言わず、旨そうに感じさせることができればさらによい句になります。
次回は7月23日(火)の掲載となります。前日22日の午後6時までにご投句いただければ幸甚です。河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
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