私の発行しているミニコミ「車掌」。
その27号が今、大詰めを迎え、先月第1回かるた大(小)会を行った。
この会で、2020年から作り続けている27号は、ついに9部ほど完成、商品化された。
そして次回7月6日(土)の第2回かるた大(小)会で、さらにまた10部ほどの完成を目指す。
最終的に何部でき、すべてが完成するのはいつか、発行者である私にもわからない。
車掌27号は、全3000~4000篇ほどの膨大な絵日記から成っている。
それを40篇ずつ小分けにし、商品とする。だから商品ごとに違う内容の40篇が収まっている。
そしてその40篇ずつの絵日記はみな、絵の部分と、字の部分が異なるページに分れてて、そして通常の本のような糊づけ・紐綴じがされてなく、バラバラ。なので順番が変わると、どの絵がどの文に対応するかがわかんなくなっちゃって、でもよく読み、よく絵を見ればわかるようになっている。
かるたとして遊ぶため、無作為に順番を変えて何度でも楽しむためにそうなっている。そう、車掌27号はかるたなのだ。
絵日記の書き手は、実にさまざま。漫画家、ミュージシャン、主婦、子ども、無職ひきこもり、重度障害者、会社員、バー店主、…etc.もちろん私もたくさん書いた。
日常生活丸だしの絵日記かるた。遊びながら書き手たちのこの4年間の生活ぶりや、成長具合なんかがほの見えてくる。ただ、1部買うだけじゃ全編のほんの1~2%程度しか読めないわけで、だから公開かるた大(小)会にて、全ページを読む機会を作っている。というわけだ。
私は1987年という太古の昔にこのミニコミ車掌第1号を発行した。
そんとき文字は和文タイプと写植の組合せ。印刷屋に発注し、原稿用紙に書いた字が、指定のとおり活字になって戻って来ると、言い知れぬ感動を覚えたものだ。「活字」とは出版対象の、選ばれた文だけに許された特権の文字。そんな思い込みがあり、自分の書いた字が活字になると、自分で発注してるんだから当たり前なのに、なんか偉くなった気がしたのである。
6~7号あたりからワープロという新兵器を導入、自前で文字を活字化できるようになった。
そしてワープロがパソコンという更に強力な兵器にとってかわると、今まで明朝とゴシックだけだった活字が、丸ゴシックや楷書、行書、ポップ体、なんかまでいろいろ選べるようになった。表現の幅が増えた気がした。
今や、メモすらもスマホに入力する時代。学校へも1人1台のPCが導入され、「紙に字を書く」という行為、「自分の字」ってものが、要らなくなった。
自分で書く字は、時間がかかり、曲がるし、コピペもできないし、読みにくいし、消しにくいし、直しにくいし、優劣がはっきりするし、合理性・効率性という点で欠点だらけの、ゴミのようなものだ。
そして車掌27号絵日記かるたの読み札は、そんな不効率極まりない、さまざまな手書きの文字が大集結した、ごみのオンパレードなのである。
もちろん絵も手書き。うまいのも(プロもいる)あるけど、大半は私のような素人が描いた「へたな絵」だ。丁寧だけど素人くさい絵、何の絵だかわからない絵、ボールペンで殴り書きしたような、相当雑なひどい絵もある。市場価値のまったくなさそうな、これまたごみのオンパレードではあるけれど、へたな絵の一体なにが悪いんだろう。
何千枚もの読み札、絵札にはそれぞれ、作者の言い知れぬ人間性がにじみ出ている。
だから私には、フォントで構成されるきれいで間違いのない既成のかるたの読み札より、村上隆の華やかな原画100枚より、車掌27号のかるた札1枚1枚の方が、ずっとずっと愛おしい。
車掌27号は、市場から排除されたゴミが大結集したような、完成品でも不良品のような、でもだからこそ価値がある、溢れんばかりの価値がある、ものすごいミニコミ。大自信作である。
かるた取り大(小)会は、しばらく断続的に開く(*)ので、是非お気軽に、遊びに来てください。要望があれば地方にもかるた持って飛んでいきますよん!(**)
(*)車掌27号に関する最新情報は、車掌27号かるた係のX(https://x.com/63kSAKH6BL7UIZQ)で随時お知らせしています。
(**)我が地方でかるた会やって、との希望者は、XのDM機能かチラシに書かれたアドレス宛にご一報ください!
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塔島ひろみ<詩人・ミニコミ誌「車掌」編集長>
『ユリイカ』1984年度新鋭詩人。1987年ミニコミ「車掌」創刊。編集長として現在も発行を続ける。著書に『楽しい〔つづり方〕教室』(出版研)『鈴木の人』(洋泉社)など。東京大学大学院経済学研究科にて非常勤で事務職を務める。